著者は中国で生まれ育ち、これまで多くの厳しいしつけ(大きい声で叱られたり、平手されたり、お尻を叩かれたり)を受けてきたと思うが、日本で子どもを育てる際、“叩いたら虐待だと言われ通報されるかな”“暴言したら心理虐待になるかな”と思わず考えてしまう。
著者は文化の違いによって、子育てにおいて矛盾を感じている。
もちろん、著者は子どもに手を出すことや暴言を吐くことは良い教育の仕方ではないと考えているが、過去に自分が受けてきたしつけが、体験として自然に子育ての際に出てしまいそうに感じていた。
出てしまったら大人として行動や感情をどのようにコントロールしたらよいか対処すべきだと思うが、著者が感じている矛盾は、家庭文化の差そして国の文化の差によって生じたものであると考えられる。
インタビューで、手を出す養育のあり方に納得している大学生の家庭文化、あるいは地域の文化において、手を出す体罰のような養育を許しているのかもしれない。
しかし、虐待が社会問題になり、手を出すことによる子どもへの悪影響の周知につれ、著者のように矛盾を感じる親が増えてくるだろう。
そうなると新しい家庭文化の再構成が必要になってくる。
親の養育が自分の成長に与えた影響を振り返ったうえでの、親となる自分への展望
インタビューの結果「親の養育の自分の成長への影響について」と「親の夫婦関係が良好であるか、自分への影響について(本書を参照)」で示されたように、6人の中国人大学生はそれぞれの思いを述べていた。
共通点として、親の養育のあり方が自分の性格、人生の価値観、人間関係、自立能力に影響を与えていることがわかる。
また夫婦関係が良好ではない場合、大学生が人の前で親のことをいえなかったり、片方の親に対するイメージが良好ではなかったり、家庭では安心感を十分に得られなかったりすることもあげられる。
※本稿では各調査元(研究者氏名)と、調査年を()内に明記している。
矢藤 優子
立命館大学総合心理学部 教授
劉妮(りゅう・に)
龍谷大学大学院博士後期課程満期退学。修士(臨床心理学)。龍谷大学非常勤講師、大阪バイオメディカル専門学校非常勤講師、児童養護施設聖家族の家プレイセラピスト、大阪府立高等学校スクールカウンセラー、立命館アジア・日本研究機構補助研究員。 〔本書担当箇所〕第5章