(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、マネックス証券株式会社が2023年4月14日に公開したレポートを転載したものです。

本記事のポイント

・中長期的な企業価値向上を実現するための東証要請は前代未聞

・「JPXプライム150指数」は企業経営のお手本インデックス

PBR1倍割れで前代未聞の東証要請…

マネックスグループ・グローバル・アンバサダーのイエスパー・コールは常々「なぜ日本人は自国の株を買おうとしないのか」と嘆いている。自分のお膝元に、とても有望で割安に放置されている企業がたくさんあるのに、と。

 

かつて坂口安吾は『日本文化私感』のなかで、ジャン・コクトーの逸話を紹介した。「いつかコクトーが、日本へ来たとき、日本人がどうして和服を着ないのだろうといって、日本が母国の伝統を忘れ、欧米化に汲汲たる有様を嘆いたのであった」

 

ウォーレン・バフェットが日本株への追加投資の検討を表明した。日経平均は2万8,000円台を回復、今日で6日続伸だ(14日寄り付き現在)。そりゃあ、「投資の神様」のご託宣を受ければ、相場が強含むのも無理はない。すでに投資している商社だけでなく、次の投資先として「考えている会社は常に数社ある」という。改めて日本株の割安さにスポットライトが当たってきた。

 

しかし、そんなことはバフェットにいわれるまでもなく、わかっていたことではないか。バフェットさまさまだから、ケチをつけるつもりは毛頭ないが、情けないのは日本の投資家だ。坂口安吾の『日本文化私感』はこう続く。

 

「タウトが日本を発見し、その伝統の美を発見したことと、我々が日本の伝統を見失いながら、しかも現に日本人であることとのあいだには、タウトが全然思いもよらぬ隔たりがあった。すなわち、タウトは日本を発見しなければならなかったが、我々は日本を発見するまでもなく、現に日本人なのだ」

 

外国人に日本株のよさを「発見」してもらう前に、日本に住み、日本企業に囲まれて暮らしている我々日本人が日本株に投資しようとしない、そこが情けないところである。

 

情けない話といえば、東証の要請も同様だ。東京証券取引所はプライム市場とスタンダード市場の全上場企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」を通知した。

 

その中身をみると、「本対応を実施していただく趣旨は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するため、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践していただくことです」とある。

 

そして、現状分析⇒計画策定・開示⇒取組の実行というPDCAサイクルを回すように指示している。分析・評価の例として、「資本コストを上回る資本収益性を達成できているか、達成できていない場合には、その要因」を開示せよという。

 

ご丁寧にも「資本収益性の分析・評価にあたっては、WACC(加重平均資本コスト)との比較でROIC(投下資本利益率)を、株主資本コストとの比較でROE(自己資本利益率)を利用することなどが考えられます」との注意書きまである。

 

新しくJPX(日本取引所グループ)のCEOに就いた山道裕己さんはウォートンのMBAだからWACCを上回るROICが企業価値創造の基本であるなんてことは常識として頭に入っているだろう。もしかしたら株主資本コストとROEの差(エクイティスプレッド)の現在価値がPBR1倍以上のプレミアムの源泉となる残余利益モデルの構造もご存じであるに違いない。

 

しかし、である。実際の企業経営者からしてみれば、「資本コストや株価を意識した経営の実現」を取引所に要請されるというのは腹立たしいことではないか。

 

資本コストや株価を意識した経営をしていない経営者なんているのだろうか? と書いた傍から否定する声が聞こえてくる。いや、いるだろう、しかも大勢いるのだ。そうでなければ1,800社もの上場企業がこれほど長きにわたってPBR1倍割れの状況に甘んじているわけがない。

 

だから1番、情けなく感じているのは、誰であろう東証自身ではないか。こんなことを上場企業に要請しなければならないなんて! 資本コストや株価を意識した経営をしてください、お願いします、と国を代表するトップ企業に取引所が要請するなんて、前代未聞だ。古今東西、日本だけである。

 

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