1―はじめに
平成30年に総務省が行った「住宅・土地統計調査」によると空き家の数は848万9千戸と増加の一途を辿っている。そのうち「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」、「二次的住宅」を除く「その他の空き家」が348万7千戸を占めている1。空き家は老朽化した建物の倒壊による人的・物的損傷をあたえることや景観および都市環境の悪化、放火による火災、犯罪の温床となり治安の悪化をもたらすなどの悪影響を及ぼす。それだけでなく、活用されない空き家が増えることで非効率な土地利用になり、コンパクト化への阻害要因になるなどまちづくりにも悪影響を及ぼし、空き家の増加とそれに伴う外部不経済性を考えるとその活用のために注力する必要があることは明らかである(図1)。
また、住み替え先の意向が戸建では中古住宅が新築の3割程度という結果であり、特に、中古の戸建住宅の需要が低いことが分かっている*1。さらに、趙ら*2の研究によると既存住宅に対する認識として漠然とした負のイメージを持っていることや新築にはない独特の雰囲気や味わい、心地よさなどは否定的な評価をしていることが分かる。この認識を変えていかない限り、空き家の活用を進めることは難しい。
そのために空き家の特徴を生かした方策を考えたい。新築住宅と異なり、空き家には人がそこで生活をしていた時間、その「物語」が存在する。「物語」に触れることが人間の心情や行動に大きく影響を与えることが分かっている。空き家が活用されていた時の事柄を「物語」として記述することで空き家を活用することを考慮していない人々に対しても空き家の価値を伝えることが出来る可能性がある。そこで、本稿では「物語」を効果的なものにするにあたってどのような「物語」を作成するべきであるかについて述べ、そのような物語を記述するために住生活に必要な事柄について考察する。
2―空き家対策について
空き家とは「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空家法)」第2条第1項において、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。*3」とされている。また、空き家は流通市場に出ているが借り手や買い手が見つかっていない「賃貸用の住宅」および「売却用の住宅」、別荘やたまに寝泊りで利用される「二次的住宅」、それ以外の人が住んでいない空き家で様々な理由で人が居住していないものを「その他の空き家」と分類している*3。
空家等対策特別特措法が2017年に施行されたことから各自治体において空き家対策が動き出した。空き家の活用に関する支援制度もあり、活用方法やコストの問題は解決に向かう兆しが見えてくる可能性がある。手続きや金銭的な課題については補助事業などを用いることで解決することが期待できる。しかし、空き家に対するイメージが低いままでは空き家の活用にはつながりにくい。
3―「物語」について
1|物語による意識の変化
物語は物事を実感し、理解させることが出来ることが明らかにされており、物事を伝えるために有効な手段であるとされている。Brunerは人間の認知や思考の形式には形式的な数理体系や一貫しており矛盾のないものが求められる「論理実証モード」とストーリーの質、人の心を引き付けるもの、信じることのできる歴史的説明をもたらす「物語モード」が存在するとしている*4。「物語モード」は個人の体験に関連付けられ、人の感覚や直感に直接アプローチするものである。人の行動や意識において「物語モード」が強く関わっている。
また、Greimasによると、物語の構造は主体と客体、送り手と受け手、援助者と敵対者という対称的な3つの視点で構成されており、それぞれが【図2】のような関係で繋がっている*5。
送り手が主体に客体を求めるように伝え、主体は客体を求める。その結果、受け手が客体を受け取る。その過程の中で、反対者が主体を妨害し、援助者が支援するという構図となる。それぞれの役割は【表1】の通りである。
2|物語を用いた広告
物語が活用される場面として、物語広告がある。広告において物語を活用することで消費者の態度変容を促すことが知られている。空き家についての情報が一種の広告であると考えると物語広告の手法を取り入れることが可能だと考えられる。
物語広告において物語性を測定するものとしてEscalasの物語性尺度が多く用いられている。物語性尺度は(1)目標達成のための登場人物の行動、(2)登場人物の感情の伝達、(3)登場人物の生活の変化、(4)出来事の要因の説明、(5)オープニング・ターニングポイント・エンディングの存在、(6)具体的な出来事についての記述の6つの要素によって構成されている*6。これらの要素を満たす度合いによって読者の感情への反応が大きくなる。
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