東芝「CPSカンパニー」:ハードに強い日本企業だからできるDX
IoT(モノのインターネット)が進みフィジカルとサイバーが融合する世界が広がる近未来に向けて、ものづくりを起点にプラットフォーマーを目指す企業に東芝がある。
東芝は2018年に、モノなどが存在する実世界(フィジカル)と、そこで発生する多様なデータが収集・蓄積されるデジタル世界(サイバー)とを相互に連携させることで新たな価値を提供していく、世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業を目指すことを掲げた。
自動改札機やETC(高速道路の料金収受システム)、POS(販売時点情報管理システム)など多くの製品を実装してきたことを資産として活かして、そこから得られるデータとサイバー企業の情報とを組み合わせて新たな企業価値を生み出すプラットフォームを構築する。
例えば、国内トップシェアのPOSレジで、レシートの印字データを電子化して買物客のスマートフォンにスマートレシートとして提供し、購買傾向に合わせたクーポン発行で来店を促進する。さらに、地域ウォレットと連携させるなどの広がりをつくろうとしている。
島田太郎・東芝社長は著書『スケールフリーネットワーク』(尾原和啓氏との共著、日経BP、2021年)で、「米国企業が『選択と集中』で勝ち進んできた一方で、日本企業は『選択と集中』を苦手としてきたために、結果として多様なものづくり技術と人材にあふれている。今後はハードウェアに強く、開発技術力を持つ多様な人材が日本企業の強力な武器になるだろう」と認識を述べている。
そして、日本の「ものづくり」と「スケールフリーネットワーク」が有機的につながれば、サイバーとフィジカルが融合するデジタル化第2回戦では日本が大逆転する可能性すらあると指摘する。
「スケールフリーネットワーク」とは、大多数のノードがごくわずかなリンクしか持たない一方で、膨大なリンクを持つハブと呼ばれるノードが存在するネットワークである。膨大なリンクを持つ一部のハブが強大な力を発揮する一方で、無数に存在する少数のリンクしか持たないノードが多様性を生み、大きな環境変化を起こす力を発揮する、というコンセプトだ。
例えば、アマゾン・ドット・コムの商品のロングテール性は、スケールフリーを使いこなしている事例であると指摘する。
スケールフリーネットワークの構築方法について島田氏は、投資家から巨額の資金を集めて製品を開発しながら、無料で配ることでシェア確保してマネタイズする米国方式、何年もかけて規格を定めてISOなどの標準化団体に登録し世界に広めていくドイツ方式とは異なる第三の方法として、「アセットオープン化」を提起する。
自社がつくってきた製品やサービスのアセットをオープンにして誰でも接続可能にすることで、低コストかつ短時間でスケールフリーネットワークをつくる。オープン化することで機器やサービスをユーザーが自分でつないでいくため、自然にスケールフリーネットワークが成長を続けていき、オープンにしたアセットが結果的にデファクトスタンダードになる、という考え方である。
東芝のプラットフォーム戦略の原点には、これまで世に送り出してきた製品と優秀で多様な技術者が自社の宝であり、デジタル化が進む中でこれをどのように活かすかという問題意識がある。
日本企業の特性に基づくプラットフォーム戦略
トヨタ自動車、東芝のプラットフォーム戦略は、モノづくりの競争力を守り活かして、自社製品を「データの発生源」として発展させ、ソフトウェアやサービス事業に重心を移していくものであり、多くの日本企業が採用し得るポジショニング戦略である。
堅牢なインフラ構築と魅力的なアプリケーション開発を両立
日本企業のプラットフォーム事業化においてしばしば観察される課題は、基盤(インフラ)はしっかりと構築するが、その上で動くユースケース(アプリケーション)を生み出せないことである。顧客にとって魅力ある新規サービスを開発できない、サービス間のシナジーを生み出せないために、プラットフォームとしてスケール化できない。
この課題は消費者向け(2C)サービスで顕著だが、企業向け(2B)でも生じ得る。要因として、プラットフォームの基盤を開発する人材と、プラットフォーム上でサービスを開発する人材に求められるスキル、思考・行動様式が異なる点に着目するべきだ。
日本企業、特にハードウェア開発に強みを持つ企業の社員は、リスク管理を重視し、堅固なプラットフォーム基盤を構築することに長けている。しかし、市場と対話しながらスピーディにサービスを開発して、柔軟に手直ししていくアジャイルな動き方は、必ずしも得意でないケースが多い。
プラットフォームとして顧客に価値提供するためには、この2つのタイプの人材を揃えて、組織マネジメントにおいて「両立」させることが、経営に求められる課題である。
このためには、①自社のプラットフォーム事業で求められる人材タイプを明確に定義したうえで、②自社が育成してきた人材・チームとのギャップを埋めるためのアクションをとる、という、摩擦も伴う組織マネジメントを避けてはならない。
岡野 寿彦
NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センター
シニアスペシャリスト
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