米国GAFA・中国BATの時代がもうすぐ終焉…IT市場競争・第2ラウンドでは「日本企業」に勝ち筋があるワケ

米国GAFA・中国BATの時代がもうすぐ終焉…IT市場競争・第2ラウンドでは「日本企業」に勝ち筋があるワケ
(※画像はイメージです/PIXTA)

IT市場競争の第1ラウンドでは、日本は米国のGAFA・中国のBATに完敗しました。しかし、2C(消費者サイド)の「規模の獲得」を巡る競争は飽和状態となり、終焉が近づいています。そのようななか、今後幕開けするIoT時代における価値創出を競う第2ラウンドでは日本企業に勝ち筋があると、NTTデータ経営研究所グローバルビジネス推進センターのシニアスペシャリスト岡野寿彦氏はいいます。その理由を日本企業のトヨタ、東芝のプラットフォーム戦略とともにその独自の強みを紐解き、解説していきます。

摺り合わせ、現場力を活かしたプラットフォーム化

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摺り合わせ、現場力によるモノづくり・サービス品質の競争優位性を基盤として、プラットフォームを構築して、より多様なデータを収集し、顧客への提供価値を拡げるモデルである。

 

本記事で取り上げるトヨタ自動車と東芝は、いずれも、自社製品を「データの発生源」として発展させ、プラットフォームによってソフトウェアやサービス事業への重心移動を進める戦略をとっている。

 

東芝は、不正会計問題や取締役会の機能、株主との対応など、コーポレートガバナンス(企業統治)問題で大きく揺れているが、現経営陣が進めるこれまで開発してきた製品を活かしたプラットフォーム戦略については、日本の伝統的企業のDXから示唆が得られると考える。

 

トヨタの「スマートシティ」実現に向けたプラットフォーム展開

トヨタ自動車はビジョン・メッセージとして、「『未来のモビリティ社会』の実現を目指しながら、これまで以上に『愛車』にこだわり続け、『もっといいクルマ』をお届けしていきます」と掲げている(同社HP)。

 

トヨタが自動車を事業のベースに据えながらモビリティ・カンパニーへのモデルチェンジを進める中核となるのがプラットフォーム戦略である。MaaS(Mobility as a Service、サービスとしての移動)やCASE(車が目指す将来像)、スマートシティの実現に向けたプラットフォームに加えて、「トヨタ生産方式」などのノウハウ、技術を活かした「ものづくりプラットフォーム」にも積極的に展開している。

 

トヨタが培ってきた経営手法を活かして社会課題解決へ

Woven City(ウーバン・シティ)は、自動運転やロボット、住宅など、モノと人がインターネットでつながり、集めたデータを活用して最適なサービスを提供する街を目指して、静岡県裾野市で建設が進められている。ウーバン・シティの原点は、「ヒトが中心」、「実証実験ができるプラットフォーム」、「未完成の街」である。

 

豊田章男会長はウーバン・シティについて、「『ヒトが中心』で、未来のための『実証実験』ができるプラットフォームをつくる」、「そのプラットフォームに『今よりもっといいやり方がある』というトヨタのカイゼン手法を根付かせたいと考え、『未完成の街』とすることを決定した」と語っている(トヨタイムズ「今、明かされるWoven Cityの原点:トップが悩み、たどり着いたこと」)。

 

自動車の生産・販売というコア事業で蓄積してきたカイゼン手法を、CASE/スマートシティの実現においても武器として活用しようとしているのだ。

 

ウーバン・シティでは、自動運転やモビリティに加えて、カーボンニュートラルの実現、さらには食と健康をテーマとして、バーチャルとリアルを融合する実証実験が進められている。カーボンニュートラルの実現では、ENEOSとの協業で、水素ステーションの建設・運営とCO2フリー水素の製造、水素ステーションからウーバン・シティおよび燃料電池車(FCEV)への水素供給、さらには、水素の需給管理システムの構築を進める※1

 

また、食と健康については、日清食品との協業で、「食と栄養のあり方」や「食と健康寿命延伸との相関」をテーマに、

 

・「完全栄養食メニュー」の提供を通じた住民の食の選択肢拡充と健康増進

・一人ひとりに最適な「完全栄養食メニュー」の提供に向けたデータ連携

 

の実証実験を進める。フードロスなど食にまつわる課題解決に向けて、自働化やジャスト・イン・タイムといったトヨタ生産方式のノウハウを食品サプライチェーン上でも活用するとのことだ※2

 

※1 TOYOTA Woven City「ENEOS、トヨタ、ウーブン・プラネット、Woven City を起点としたCO2フリー水素の製造と利用を共同で推進」(2022年4月23日)

 

※2 TOYOTA Woven City「食品とトヨタ、Woven City における食を通じたWell-Being の実現に向けた具体的な検討を開始」(2022年4月26日)

 

技術をオープン化してサービス開発を拡大するトヨタ

トヨタ自動車は、2016年より「モビリティサービス・プラットフォーム」(MSPF)というビジネスモデルを打ち出している。ライドシェアやカーシェア、レンタカー、タクシーなどのモビリティサービス事業者、さらには保険など事業者や地方自治体に対し、自社開発したシステムやビッグデータを開示して、サービス開発を拡大するためのプラットフォームである※3

 

DCM(Data Communication Module)と呼ばれる専用通信機を各車両に搭載し、クラウドとの間で常に通信を行うことで、ドライバーの運転技術や車両情報、交通情報をデータ化する。集まったビッグデータは「トヨタスマートセンター※4」で管理・分析され、外部の企業がアクセスしてサービス開発に活用される。

 

例えば、あいおいニッセイ同和損害保険と共同で、安全運転の度合いに応じて保険料を割引する「運転挙動反映型テレマティクス保険自動車保険」を開発した。テレマティクス技術で取得した走行データに基づき、毎月の安全運転の度合いを保険料に反映するものである※5

 

※3 トヨタ自動車HP『トヨタ自動車、カーシェアなどのモビリティサービスに向けたモビリティサービス・プラットフォームの構築を推進』(2016年10月31日)

 

※4 低炭素社会の実現に向けた効率的なエネルギー利用を目指したスマートグリッドへの取り組みの一環として、住宅・車・電力供給事業者とそれを使う人をつないでエネルギー消費を統合的にコントロールするトヨタ独自のシステム(トヨタ自動車HP『トヨタ自動車、先進のエネルギー管理システム「トヨタ スマートセンター」を開発』(2010年10月5日))

 

※5 トヨタ自動車HP『トヨタのコネクティッドカー向けに国内初の運転挙動反映型テレマティクス自動車保険を開発』(2017年11月8日)

 

「自動車」という原点を忘れず、モビリティ・カンパニーへの変革に挑む

豊田章男社長は、2022年6月15日株主総会で、モビリティ・カンパニーへの変革に挑む今だからこそ「クルマ屋」であるという原点を大切にしたい、と株主に対して語っている。

 

「今、トヨタは『モビリティ・カンパニー』へのフルモデルチェンジに挑戦しております。今後、私たちのつくるものや提供するサービスも変わっていくと思いますが、私は、『クルマ屋』にしかつくれないモビリティの未来があると信じております」

 

「トヨタの『思想』と『技』をしっかりと伝承し、『あなたは、何屋さんですか?』と聞かれた時、『夢』と『自信』と『誇り』をもって、『私はクルマ屋です』と答えられる人財を育てることが、私のミッションだと思っております」

 

自動車の生産・販売というコア事業に立脚した、トヨタのプラットフォーム戦略の基本思想が込められている。

 

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中国的経営イン・デジタル 中国企業の強さと弱さ

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岡野 寿彦

日経BP 日本経済新聞出版

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