4―高度人材とは?
単純労働と同じく、高度人材も曖昧な言葉である。ここでは、主に日本における高度人材の狭義と広義の定義の違いについて確認し、政策上の想定と乖離してきた現状について整理する。
1|国際標準分類(ISCO)に基づく定義
ISCOでは高度人材、すなわち高技能労働者(skilled)は、特定領域あるいは専門領域における広範な理論的・技術的な知識等を用いて、問題解決や意思決定等にあたる者と定義され、スキルレベル4の「管理職(Managers)」「専門職(Professionals)」、スキルレベル3の「技師・准専門職(Technicians and Associate Professionals)」に区分される。ISCEDの教育ベルとの対応で見ると、「博士(Doctoral or equivalent level)」「修士(Master’s or equivalent level)」「学士(Bachelor’s or equivalent level)」「短期高等教育(Short-cycle tertiary education)」に該当し、短大・専修学校卒程度以上に相当する。
具体的には、販売・マーケティングマネージャー、土木技術者、教員(中等教育)、医師、システムアナリストなど(スキルレベル4)に加えて、店長、商品販売営業員、法務秘書、救急救命士、放送・音響技師、コンピュータサポート技術院など(スキルレベル3)が含まれる。
2|日本(在留資格)における定義
一方、日本では高度人材に明確な定義が存在するわけではない。ただ一般的には、在留資格によって区分され、広義と狭義の2つの区分で使用される場合が多い。
まず、広義の区分として「専門的・技術的分野の在留資格」がある。2008年の「経済財政改革の基本方針」(骨太方針)には、受け入れを促進すべき高度人材として、専門的・技術的分野の在留資格が例示されている。具体的には、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、投資・経営、企業内転勤、技能の14資格が挙げられる。
他方、狭義の区分として「高度専門職」がある。これは、2015年に創設された在留資格であり、2012年5月に導入された「高度人材ポイント制」に基づいて付与される。外国人の「学歴」「職歴」「年収」「年齢」などをポイント化し、合計ポイントが一定の基準を超えた場合に、出入国在留管理上の優遇措置(永住要件や家族帯同の要件の緩和など)を講じる。同制度を検討してきた「高度人材受入推進会議」は、2009年の報告書*8において、高度人材を『「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」であり、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」』と定義し、専門的・技術的分野の外国人労働者の中でも、特に高度な人材としている。
また、10年後の2019年に公表した報告書9では、高度人材を『我が国での活躍により我が国の産業にイノベーションをもたらすような優秀な外国人材として、具体的には高度人材に対するポイント制による出入国管理上の優遇措置」の制度の認定を受けたもの』としている。
*8:高度人材受入推進会議「外国高度人材受入政策の本格的展開を」(2009年5月29日)
*9:総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」(2019年6月)
3|政策上の想定と異なる現状
高度人材を巡る最近の議論は、専ら高度人材ポイント制に基づく、狭義の意味合いで使われることが多い。ただ、同制度が対象としてきた人材は、報告書において意図された人材像とは、必ずしも一致していないことには注意が必要だろう。
実際、同制度の適用要件は、2019年までに計4回の主な見直しが行われてきた(図表1)。これらの見直しは、いずれも適用要件の緩和につながるものであり、当初想定されていたものより、高度人材認定の間口を広げるものとなっている。
加えて、加算要件(ボーナス項目)には、国内大学を卒業した者を優遇する措置が講じられており、留学生に有利な制度となっている。これは、留学生を高度人材の供給源、いわば「高度外国人材の卵」として捉えるという政策が反映された結果でもある。同2019年報告書によると、高度人材に占める元留学生(最終学歴の教育機関が日本国内である者)の割合は、54.4%と半数以上を占め、高度人材の主要な経路となっている。
以上を踏まえると、同制度における高度人材は、制度が受け入れを目指すような、極めて高い能力を有した人材というより、日本語を理解し日本人と共に働くことのできる、準国内人材といったイメージが近いのかもしれない。
5―おわりに
言葉の定義は、目的に応じて決まるものであり、目的が違えば定義も異なることになる。たとえば、国際機関などで用いられる定義は、各国を横串で刺して国際比較するためのものであり、その定義は各国の共通部分を抽出したような性格を有する。他方、個別国で使用される定義は、国策を展開するためのものであることが多く、それぞれの国情が反映される。日本で国際機関と異なる定義が使われるのも、外国籍者の出入国を把握しやすい地理的特性や、職務を特定しないメンバーシップ型の雇用慣行が反映されたものだと言える。
ただ、外国人政策の議論において様々な定義が混在する状況は、共通認識に基づかないためにボタンの掛け違いを生み、建設的に議論していくことを難しくする。また、政策上重要な言葉が曖昧であることは、政策と現実が乖離していく要因にもなり得る。今般、有識者会議で技能実習制度の見直しが検討されているのも、外国人の受け入れ規模が大きくなり、そうした矛盾が目立ち始めたという面もあるだろう。制度と実態の乖離がこれ以上大きくなる前に、改めて言葉の定義に立ち返ることが必要かもしれない。
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