(写真はイメージです/PIXTA)

来月8日に黒田東彦日銀総裁が任期の期限を迎えます。2013年3月に総裁に就任した黒田総裁の下、日銀は同総裁が就任した直後の金融政策決定会合(以下、決定会合)において、いわゆる「異次元緩和」を導入し、およそ10年もの長きにわたって継続してきました。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏が異次元緩和を改めて振り返り、総括したうえでその意義について考察していきます。

4)貸出促進効果は不動産に偏重

なお、設備投資に関しては、金融緩和による金利低下が企業の借入意欲を高めることを通じて促進される効果も考えられるため、このルートについて確認すると、まず、異次元緩和後に市場金利が大きく押し下げられたことを受けて、銀行の貸出金利は明確に押し下げられている(図表13)

 

【図表13】【図表14】
【図表13】【図表14】

 

景気回復に加えてこの金利低下の効果もあったとみられ、銀行貸出も異次元緩和後にやや伸び率を高め、期間を通じて見れば、概ね前年比3%弱とまずまずの水準で推移してきた(図表14)。しかしながら、伸び率の内訳を見ると、不動産業*6向けと個人向けの寄与度が高く、両者の伸びが全体の伸びの約半分を占めてきた。個人向けの大半が住宅ローンであることを踏まえると、殆どが広義の不動産領域と言える。不動産業向けも住宅ローンもレバレッジが高いことが多いため、金利感応度が高い。また、貸し手の銀行側からしても、貸出の際に不動産を担保に取れるため手掛けやすいという面もある。

 

不動産領域向けの貸出が伸びることが必ずしも悪いわけではないが、異次元緩和後の銀行貸出の伸びは不動産領域向けに偏っている。つまり、金利低下の追い風を受けやすい不動産領域以外では、貸出促進効果が限定的であったことがうかがわれる。多くの業種では、期待成長率の低さがネックとなり、金利が低下しても前向きな資金需要が喚起されにくかった可能性が高い。

 

*6:個人による貸家業(アパートローンなど)を含む

 

5)雇用の増加は人口動態・社会構造の変化による寄与も大

次に、異次元緩和の功績として挙げられることが多い雇用情勢の改善について見てみる。

 

確かに異次元緩和後に雇用者数が500万人余りも増加する一方、失業者が100万人余り減少したため、失業率は、コロナ過での一時的な上昇はあったものの、低下基調を辿ってきた(図表15)。異次元緩和後の雇用情勢の改善は鮮明と言える。黒田日銀が主張するように、異次元緩和による景気回復や企業収益の改善が雇用の増加に繋がった面もあるだろう。しかし、既述の通り、景気回復・収益改善は海外要因の影響も大きかったはずだ。

 

【図表15】【図表16】
【図表15】【図表16】

 

さらに、見逃せないのが、雇用の改善には金融緩和と殆ど無関係な人口動態の変化や社会構造の変化が大きく影響していたとみられる点だ。

 

異次元緩和前後(2013年1月→23年1月)の雇用者数の増減について業種別に見てみると、医療・福祉業界の雇用者数増加が167万人と際立って大きく、全体の雇用者数増(521万人)の1/3を占める(図表16)。そしてこの背景には、介護をはじめとする高齢化に伴う医療・福祉領域での労働需要の増加がある。また、情報通信業界の雇用者数増加も56万人と全体の1割強を占めているが、こちらは社会の情報化に伴ってIT人材の需要が大きく増加したためと考えられる。

 

さらに、人口動態の変化が企業の採用意欲を高めた面もあったと推測される。少子化の影響で若手従業員の採用が難しくなり、今後も若手・中核年齢層の人口が確実に先細りし、採用難が強まっていくことが強く懸念されるようになったことで(図表17)、人材を今のうちに確保しておく観点で採用意欲が高まった可能性がある。

 

【図表17】【図表18】
【図表17】【図表18】

 

また、異次元緩和後の雇用者の伸びの大半は男性正規労働者以外の属性である点も注目される。長時間労働に対する社会の目が厳しくなって労働環境の改善が進んだことや、政府の政策的なサポート(高齢者雇用の促進、女性の活躍推進など)もあって女性や高齢者の労働参加が進み、企業の人材需要を賄う形になった(図表18)。ただし、特に非正規労働者の労働時間は短めであるため、必要な労働量を満たすためには人数が多く必要になり、雇用者数の増加を増幅させたと考えられる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年3月29日に公開したレポートを転載したものです。

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