法的に大きな効力がある遺言書
現在の相続対策は「分割」が中心となっているからこそ、遺言書をぜひ作成してほしいと思います。遺言書は相続時のトラブルを防ぎ、相続財産を効率よく引き継ぐためのものです。分割しにくい不動産やその他の資産が相続財産の中心であったとしても、遺言書が残されていれば被相続人の意思がわかり、相続手続きをスムーズに行えます。
遺言書は法的に大きな効力があります。遺言の内容が有効の場合、仮に相続人が遺言書に書かれている内容とは異なる方法で遺産分割をしようとすると、相続人全員で話し合い、全員が合意しなければなりません。相続人には遺留分の減殺請求をする権利がありますが、遺言の内容によって遺産分割を進めるのが前提です。
遺言書には法的効力のある事項が決められています。それは以下の通りです。法的に効力のある事項は大別すると「①財産」「②相続」「③身分」に関する3つです。
①財産
●遺贈(遺言により財産を与えること)
●寄付行為(財団法人設立のための寄付および宗教団体への寄付などを含む)
●信託の設定(遺言による公益信託の設定など)
②相続
●相続分の指定または指定の委託
●遺産分割方式の指定または指定の委託
●遺産分割の禁止(ただし相続の開始から5年以内)
●共同相続人の担保責任(負債や損した分などを負担する責任)の指定
●遺贈の減殺方法(遺留分の侵害による減殺請求があった場合の減殺の方法)の指定
●生前贈与、遺贈の持ち戻しの免除
●推定相続人の廃除、廃除の取り消し
●遺言執行者の指定または指定の委託および遺言執行者の報酬など
③身分
●認知
●後見人の指定
●後見監督人の指定
●先祖の祭祀主宰者の指定
遺言書の内容は単なる遺言者の希望ではなく、これらの事項について法的効力が発生します。したがって正しく遺言書を作成しておくことで、遺族が相続手続きをスムーズに進める助けになるのです。
ただし、遺言者の意思だからとはいえ、もらう人の立場になって考えなければ、逆に遺言書が相続争いの引き金になる場合もあります。そこでここからは、遺言書を作成する際のポイントについてみていきましょう。
遺言書作成が好ましいケースは多数
相続のお手伝いをさせていただくなかでは、遺言書が残されているケースはまだ少数といわざるを得ません。では、特に遺言書を作成しておいたほうがいいのは、具体的にどういったケースでしょうか。
●子どものいない夫婦
まず子どものいない夫婦は遺言書を必ず作成してください。たとえば夫婦の間に子どもも両親もおらず、夫が先に亡くなった場合、妻の相続分は4分の3です。残りの4分の1は夫の兄弟姉妹が相続することになります。
仮に相続財産が自宅しかなく、遺産分割の話し合いがこじれた場合、妻は長年住み慣れたマイホームを売りに出し、売却資金の4分の1を兄弟姉妹に渡さなければならない可能性があるのです。そうならないためにも、すべての財産を妻に相続すると遺言書に書いておくのです。そうすれば妻も安心できるはずです。
子どものいない夫婦が遺言書を作成する場合、余計な話にはなりますが、離婚の可能性がないのかということも念頭に置いていたほうがいいかもしれません。ただし、遺言書には条件の記載も可能です。離婚した場合は無効との条件をつけることも可能です。
●自宅を妻に残したい場合
たとえば夫婦に子どもが2人いて、自宅しかない財産を妻に相続させるような場合も、遺言書を作成しておいたほうがいいでしょう。遺言書がなければ妻の相続分は2分の1です。残りの2分の1は子どもたちが相続することになります。
子どもたちが家を売って相続分を分けてほしいと主張すれば、最悪のケースでは、妻は長年住み慣れた家を手放さなくてはならなくなります。そうした事態を回避するためにも、自宅は妻に相続させると遺言書に記載しておきましょう。
●息子の嫁に財産を相続したい場合
息子の嫁にも財産を譲りたい場合も同様、遺言書を作成しておきたいところです。現在の民法では、妻は夫の両親の遺産の相続権がありません。
仮に妻が同居の両親の面倒を長く看ていたとしましょう。この場合、両親は息子の嫁にも財産を譲りたいと思うはずです。しかし、万が一にも夫が両親よりも先に亡くなり、さらに子どもがいなければ、亡夫の親の財産はすべて夫の兄弟姉妹のものとなります。相続人以外にお世話になった人にも財産を渡す場合、その意思を遺言書に書き残しておくのです。
ほかにも再婚で先妻・後妻の両方に子どもがいるケースや、内縁の妻がいる場合など、財産を残したい人にきちんと相続できるよう、遺言書を活用するといいでしょう。