企業経営者や地主などの場合は、顧問税理士に相談できますが、一般の方は税理士に馴染みのない方も少なくないはずです。今回は、頼れる税理士を見極めるポイントについて見ていきます。

1人の税理士が1年間に申告する相続税の件数は約0.7件

相続対策で頼りになる税理士をどうやって選ぶか――これは現実的にはなかなか難しいと思います。企業経営者や地主などの場合は、顧問税理士に相談できるでしょう。しかし一般の方は税理士に馴染のない方も少なくないはずです。そのなかでどうやって頼れる税理士に出会うのか。まず安心な方法は、信頼できる友人・知人の紹介でしょう。しかし友人・知人にも税理士の知り合いがいない場合、以下も参考にしてもらえたらと思います。

 

【相続対策に精通した税理士を選べ】
税理士は税に関する専門家ですが、実は相続税や相続対策全般に精通した税理士はそれほど多くはありません。その理由の一つは、税理士の数に比べて、相続対策という仕事の絶対量が少ない点です。

 

相続税の年間申告件数約5万件に対して、税理士は全国に約7万4000人います。単純に計算すると、1人の税理士が1年間に担当する相続税の申告代理の件数は約0.7件です。つまり税理士にとって、相続税の案件は1年間に1件するかしないかという程度の仕事なのです。

 

税理士によっては何年間も相続税の申告代理をしていない人もいるはずです。そうした税理士に対して、相続税の基礎知識を教え込むセミナーまであるほどです。したがって、頼りになる税理士を選ぶ基準の一つは、相続対策にいかに精通しているかという点になるでしょう。

税務知識だけなく人間関係の問題も解決に導けるか?

【税理士の仕事に取り組む姿勢が正しいか】
もっとも、数をこなしていればいいというわけではありません。相続税の正しい申告を行うためには、のちに述べるような調査や資料準備が求められます。そうした労を惜しまずに、相談者に親身になり、誠実に仕事に取り組む税理士でなければなりません。

 

名義預金や隠し資産がないのか確認し、さらには土地の評価を丁寧に行い、正しく申告すれば、税務調査が入っても心配はありません。しかし、いい加減なやり方で申告し、税務調査で引っかかると、延滞税や重加算税がばかになりません。その意味でも、どの税理士に依頼するのかは大事なのです。

 

もちろん相続対策は節税の問題だけではなく、遺族の方々がいかに幸せな相続を迎えられるのかが大事です。遺産分割で相続人同士の意見対立があれば、税理士が中立的な立場で間に入り、客観的な視点で感情のもつれを解きほぐしながら、事態の収拾を図る必要も出てきます。税理士は単なる税務の知識だけでなく、そうした人間関係の問題を解決に結びつける力も求められるのです。

 

【横のネットワークを持っているか】
相続対策を進めていくなかでは、私たちのような税理士だけでなく、他の専門家の力を借りる場面も出てきます。弁護士や司法書士、行政書士、土地家屋調査士などの専門家との豊富なネットワークを持っているのかも、頼れる税理士を見分けるポイントになるでしょう。

他の専門家との連携能力も重要なポイント

【専門家同士の連携で複雑な相続問題を解決】

専門家のネットワークの活用で成功した事例を紹介しましょう。ある年の3月の確定申告期間に70歳後半とみられる男性Kさんが、筆者も在籍するJMCのメンバーの1人である税理士事務所を訪れました。話を聞くと、前々年に妹のLさんが亡くなったとのこと。金融機関へ妹の預金を引き出しに行ったところ、被相続人Lさんの母の戸籍謄本が19年間ほど空白があるといわれ、どうしたらいいか困っているとの相談でした。

 

相続税の申告期限は前年の5月で、すでに期限後です。遺産も相当あるようで、何より家族関係が複雑でした。戸籍謄本の空白を埋めるために家族関係を調べようにも、Kさんはどうすればいいのかわからず、途方に暮れていたのです。Kさんは被相続人Lさんと2人で暮らしており、2人とも独身でした。よって、そもそもKさんは、相続人は自分1人だけだと思っていたのです。

 

とにかく、まずは母親の戸籍がつながるように、謄本を取り寄せなければならなりません。この件はメンバーの知り合いの司法書士の先生に依頼しました。司法書士の先生の協力ででき上がった図表6の最終的な相続関係図をみると、新たに相続人Aさん、Bさん、Cさんが現れました。この3人の現住所も確認できました。ここまでが司法書士の仕事です。

 

依頼人である相続人のKさんにA、B、Cさんについて聞いてみると、まったく付き合いがなく、存在自体も初めて知ったとのこと。よって、いまさら会って遺産分割の話し合いは持ちたくないという希望でした。その気持ちはよくわかります。相続人は自分1人だと思っていたところに新たに3人の存在がわかり、しかもこれまでに会ったこともないのです。初対面で遺産分割の話し合いをするのは負担が大きいでしょう。

 

こうした場合、次に弁護士の出番です。知り合いの弁護士の先生に、A、B、Cさんに被相続人Lさんの相続人であるとの通知と、遺産分割のとりまとめを依頼したのです。その際にKさんを伴って紹介し、了解を得ました。

 

弁護士の先生はひと月程度の短期間でA、B、Cさんと遺産分割の協議を終え、相続人全員が弁護士事務所で遺産分割協議書に署名押印し、印鑑証明書を提出しました。その後、すべての預金を弁護士が解約し、相続人Kさんの通帳で管理し、相続税や諸費用を差し引いた金額を各相続人の口座へ振り込んだのです。

 

こうして、Kさんと他の3人の相続人は円満な関係を保ちながら、それぞれに思わぬ遺産が得られてこの件は終了しました。司法書士、弁護士、そして税理士の専門家同士の連携の妙で無事に解決したのです。

本連載は、2013年12月19日刊行の書籍『相続大増税の真実』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続大増税の真実

相続大増税の真実

駒起 今世

幻冬舎メディアコンサルティング

2013年度の税制改正による「基礎控除の4割縮小」と「最高税率の引き上げ」で、これまで相続税とは無縁と思っていた一般家庭にも、相続増税の影響が直撃する可能性がでてきました。 「今すぐ節税をはじめなければ、とんでもな…

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