税理士の実力によって大きく変わる相続税対策の成否。今回は、前回に引き続き、相続税対策で失敗しない税理士の選び方について見ていきます。

現場に出向いて「路線価の不合理」を見抜けるか?

前回の続きです。引き続き頼れる税理士を見極めるためのポイントをご紹介します。

 

【現地・現物・現場を大切にしているか】

相続税の申告の際、最も手間がかかる事柄の一つは土地の評価です。現預金は額面通りの評価額ですが、土地は間口や奥行、形状などで評価額が大きく違う可能性があります。とりわけ財産の多くが土地である場合、その評価額が相続税の課税額に大きく影響します。

 

相続財産の評価の大原則は、現地・現物・現場を大切にすることです。土地の評価をするのに現場を見ないのはもってのほかです。現場にはさまざまな情報があるからです。

 

たとえば土地に溝がついているだけで評価減の対象になる可能性がありますし、公図では見えてこない高低差が評価額に大きく影響するケースもあります。現地に出向いて土地の形状をチェックし、証拠のために写真を撮り、申告の際の裏付け資料にするのです。

 

現場を見ることで、国税庁が発表する路線価(標準的な宅地1㎡あたりの価格)よりも減額できる可能性を見出せるようになります。路線価の不合理をいかに見抜けるか、それは専門家の腕にかかっているといえるでしょう。少なくとも、路線価だけで土地の評価を行うような専門家には依頼しないほうが賢明です。

 

ちなみに、土地の評価の出し方は、「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。一般的には前述のように路線価をベースに算出します。

 

しかし市街地以外で路線価が決められていない土地については、「倍率方式」となります。固定資産税評価額に地域ごとに決められた倍率をかけて算出します。

 

また土地の評価を算出する際には各種資料の収集も重要です。路線価図はもちろん、市役所に出向いて都市計画図で都市計画区域を確認し、また、セットバックが必要かどうかも確認しなければなりません。セットバックとは、土地の一部を道路として提供することをいいます。セットバックが必要の場合、土地の評価額を下げられます。

 

ほかにも埋蔵文化財があるか、土壌汚染がないか、ガソリンスタンドの跡地ではないかなど、市役所や法務局の各課を回って必要書類を集めなければなりません。こうした資料を相続人に集めてもらうのは無理があります。専門家が率先して動き、相続人の相談を親身に聞いてくれるか、これも信頼できる税理士を選ぶポイントになります。

税務署と「対等」に話し合いできる力も必要

【税務署との交渉を有利に進められるか】

相続財産の評価については、相続税法第22条の規定により、「相続、遺贈又は贈与によってその財産を取得した時の時価による」とされています。「時価」とは一般的には「正常な価格」または「客観的交換価値」といわれるものです。国税庁では財産の評価方法に関する取扱いの全国的な統一を図るため、評価通達によって評価の基本原則や具体的な評価の方法を定めています。

 

しかし、時価というのは、実際には雲をつかむようなものです。物の価格は需要と供給のバランスで決まるといわれます。その意味で、売りたい人と買いたい人の価格が一致したときに取引が成立し、その価格が時価となるのです。

 

しかし、相続財産の評価のために実際に売るわけにはいきません。結果として、国税庁は通達により、評価の基本原則や評価の方法を定めているのです。ただし、日本における課税標準は一本化されていません。すなわち一物一価の法則に収まっていないのです。

 

よって、相続税の申告の際に出した土地の評価額と、税務署の言い分が異なるケースがあります。その際に税務署と対等に話し合いを進め、交渉を有利に進められるかどうかも税理士の力量の一つです。

 

時価の出し方については、あくまでも国税庁の通達で法的な拘束力はありません。路線価に不合理がある場合、法律ではないので道は開けています。税務署の説明に対して「それは通達ではないですか」と切り返すだけで、この税理士は法令の感覚を持っているので侮れないと意識させることができます。

 

税務署と交渉するとき、こちらと相手との力関係も影響します。交渉力がまったく同じであれば五分五分ですが、こちらが少しでも弱気になれば一気に相手が強くなります。交渉事というのはそういうものです。ですから税理士は同じ説明をするにしても、相手に負けないように自信を持って発言できるかどうかも重要です。

 

ではその自信の源は何かといえば、やはり普段から勉強しているかどうかです。税務署の担当者も税務に完全に通じているわけではありません。筆者を含めたJMCのメンバーは定期的に勉強会を開催し、常に最新の情報を共有しています。だから、いざ税務署との交渉の際にも自信を持って臨み、意見を主張したり、不合理を指摘できるのです。

 

幸せな相続には、専門家との良い出会いも影響します。ここでお伝えした内容も参考に、ぜひ良い出会いにつなげてもらえたらと思います。

本連載は、2013年12月19日刊行の書籍『相続大増税の真実』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続大増税の真実

相続大増税の真実

駒起 今世

幻冬舎メディアコンサルティング

2013年度の税制改正による「基礎控除の4割縮小」と「最高税率の引き上げ」で、これまで相続税とは無縁と思っていた一般家庭にも、相続増税の影響が直撃する可能性がでてきました。 「今すぐ節税をはじめなければ、とんでもな…

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