父親が亡くなり、母親の存在がかすむケースも
厚生労働省の調査(2013年度)によると、日本人の平均寿命は女性が86.61歳、男性が80.21歳となっています。統計学的にみても女性のほうが男性より長生きするのです。だからこそ、あとに残される女性がいかに幸せになるかを基準に相続対策を考えるべきだと思います。「相続対策の成否は女性が幸せかどうかで決まる」――そう言い切ってもいいでしょう。
夫婦間や親子間の関係がいかに良好だったとしても、いざ父親が亡くなると、家族間のパワーバランスが微妙に崩れ、母親の存在がかすんでしまう場合があります。父親が生きている間は子どもたちも母親を大事にするのですが、父親が亡くなった途端、母親に対する態度が変化してしまうのです。
とはいえ、父親が亡くなった1次相続の際は、親族間での争いはまだ少ないように思います。父親の威厳がなくなったとはいえ、母親の存在が子どもたちの権利意識を自制させるのでしょう。
本当に醜い争いに発展するのは、やはり2次相続です。両親がいなくなり、子世代だけで遺産分割の話し合いをする際、お互いの言い分を主張し始めるのです。そうならないためにも、連載第1回の相続の心構えを念頭に置いてもらえたらと思います。
母親に喜んでもらえる節税手法とは?
さて、節税という意味でいえば、母親に喜んでもらえる方法もあります。その一つは母親に定期収入が入るしくみの構築です。これは収益不動産を所有するなど、ある程度の資産を持つ人に限られる方法ですが、法人化によるメリットを活用するのです。
法人化のノウハウはすでに多くの書籍が出ているので割愛しますが、端的にいえば、不動産を法人化したうえで、法人が得た収益を役員報酬として母親に支払うのです。個人が所有する収益不動産の家賃収入を母親に移転すれば贈与となり、贈与税がかかります。しかし不動産を法人化し、役員報酬として母親に渡せば贈与税はかかりません。さらに役員報酬は経費にできます(ただし源泉所得税はかかります)。
もちろんその条件として、母親が会社役員として経営に参画すること、適正な役員報酬を支払うこと、この2つを満たしていなければなりません。これらの条件をクリアし、不動産の法人化のメリットをうまく活用すれば、節税になるのです。
しかし、母親に喜んでもらえる方法というのは、実は節税ではなく、毎月定期収入が入るしくみのほうです。とりわけ専業主婦として長く家庭を守り続けてきた女性は、自分の銀行口座に定期収入が振り込まれる経験をされていない方がおられます。その場合、自分が自由に使えるお金が毎月入る状況に喜んでもらえるのです。
このように、母親に喜んでもらうことを第一に考えて相続対策を行うと、失敗するケースが少なくなるというのが実感です。