お客として「懐石」を楽しむコツ
そこで目を向けてみてほしいのが、ひとつひとつのもてなしのなかに表現されている季節感なのです。
古来、日本人は自然に対して強い敬意、畏怖の念を抱いてきました。
海に囲まれた島国であり、四季のある日本では、自然は豊かな恵みをもたらしてくれる存在であるとともに、台風や日照り、あるいは火山の噴火といった天災をもたらすものでもあります。
このように、さまざまな一面を見せる自然は、日本人にとって支配の対象ではなく、崇拝の対象でした。その精神は茶道にも反映されています。
懐石でも、料理はもちろんのこと、自然の季節感を表現することが重視されているので、書や器についてはさっぱりでも、生けられているお花、あるいは器の絵柄から、季節を感じ取ることならできるでしょう。
この視点ひとつあるだけでも、懐石での身のこなしや楽しみ方は、ぐんと豊かになるものです。
茶の湯も最低限の作法を知っていれば安心
懐石では、最初に①飯碗・汁椀・向付(主にお造り)がセットで出されます。ごはんと味噌汁は少量なので、おかわりするのがマナーです。向付は、亭主がすすめてから手を付けましょう。
続いて②煮物椀→③焼き物鉢→④預け鉢・強肴(炊き合わせや和え物)→⑤小吸い物椀(あっさりした汁)→⑥八寸(八寸のお膳に乗せられた2〜3品の海の幸と山の幸)→⑦湯桶(ごはんのお焦げに湯を注ぎ、薄い塩味をつけたもの)・香の物(漬物)→⑧主菓子・濃茶の順で出されます。
会席と違うのは順序だけではありません。③焼き物鉢と④預け鉢・強肴は、大皿や鉢から取り箸を使って自分の分を取り、次の人に渡します。
ここで取りすぎると全員に行き渡らなくなり、また、料理を残さないのがマナーなので、選り好みをすると後の人が多く取らなくてはいけなくなってしまいます。つまり、全員がお互いを思いやり、取るべき分量をしっかり見極める必要があります。
⑥八寸は、亭主と同じ盃で酒を酌み交わしながらいただく、というのも懐石の特徴です。亭主のもてなしの心意気を存分に感じ取りながら、コミュニケーションをとるというのも、懐石の席で守るべきマナーなのです。
そして最後の濃茶。これこそ懐石のメインですから、心していただきましょう。
濃茶が点てられた茶碗は、最初、こちらに絵柄を向けた状態で亭主から供されます。
器を両手で丁寧に持ち上げたら、正面を避けて、器を時計回りに回してからいただきます。
お茶は最後の一滴まで、ズズッと音を立てても気にせず飲み干します。
「懐石」特有の細かいマナー
その他、懐石には独特なマナーが細かくたくさん定められています。
不安かもしれませんが、懐石には必ず「正客」と呼ばれる主賓がいます。すべての動作は正客が先になりますので、作法が不安な人は、それに倣っていれば間違いありません。心を尽くし、丁寧に過ごす時間を慈しみましょう。
株式会社トータルフード代表取締役
小倉 朋子