ラオスでは数十人が死亡も…
国際エネルギー機関(IEA)は2021年の報告書で、水力発電を「低炭素発電のバックボーン」と位置づけ、特に新興国や途上国でのポテンシャルを高く評価している。
IEAによると、中国は世界最大の水力発電市場であり、2030年までにサハラ以南のアフリカ、東南アジア、ラテンアメリカで行われる新規水力発電プロジェクトの半分以上が中国企業によるものであるという。メコン川下流域では、エネルギー需要が毎年6〜7%増加すると予測されており、「完全な水力発電の開発」によって2040年までに1,600億米ドル(約21兆2,259億2,000万円)以上の経済効果が得られるとMRCは予測している。
しかしその一方で、水力発電事業による住民の移住などの影響に対する懸念は世界的に高まっている。
また、2018年にはラオスで建設中だったダムが決壊し、鉄砲水で家屋が流され数十人が死亡するという事件が発生し、“アジアのバッテリー”を目指す同国での水力発電事業に悪印象を与えるきっかけとなった。
「どう生きていけばいいのかわからない」
「何世代にもわたって川に依存してきたコミュニティは、もはや現状の川のそばではどうやって生きていけばいいのかわからない」、とラク・チエンコーン・保全グループの会長であるニワット・ロイカウ氏は言う。
2022年にゴールドマン環境賞を受賞したニワット氏(63)は、「ダムによって、川の常態は予測不可能となり、彼ら(地域住民)の知識はもはや役に立たなくなった」と話す。
現在、スティムソン・センターと「アイズ・オン・アース」(米国を拠点とし、米国政府が資金提供する環境調査会社)の共同プロジェクトでは、「衛星画像とリモートセンシングを利用して、24時間以内に川の長さの半分以上における流れの変化を、タイとラオス国境のコミュニティに警告する取り組み」を行っている。
しかし、ニワット氏はこの共同プロジェクトについて、現状の川の状態でどう生きていけばいいかわからない住人たちにとっては無意味であると考えている。「われわれはチエンコーンでメコン・スクールを運営し、地元の子どもたちに川についての教育を行うとともに、研究者の支援も行っている。人々が望んでいるのは、包括的な協議プロセスを経た川の管理だ」とニワット氏は話した。
4月までの乾季の間、カム・トンさんはカイの収穫に力を注いでいる。天気のいい日には数キロの収穫があり、そのうちの何キロかを天日干ししてシート状にしたものをおやつとして売ると、市場で高値がつくという。
「いつ海に出られるか、毎日どれだけ収穫できるか分からない。できるときに、できる限り集めておくつもりです」(カム・トンさん)