フィンガーボウルの水を飲みほし…
「マナーとはなんであるか」を考えるとき、「マナーの真髄」を端的に表す、あまりにも有名なお話があります。ご存じの方も多いと思いますが、ご存じない方のために、簡単にご紹介させてください。
ある国の女王が、外国の国賓をおもてなしするために、晩餐会を開きました。会は滞りなく進み、最後にデザートのフルーツが供されました。傍らには、汚れた指先を洗うためのフィンガーボウルが添えられています。
ところが、ある一人のお客様は、フィンガーボウルの使いかたをご存じなかったのか、間違えて指先を洗うためのお水を飲みほしてしまいました。
まわりのお客様が、その間違いに息を飲み、眉をひそめたその瞬間、女王がフィンガーボウルを手にし、平然としたご様子で、そのお水を飲みほしました。間違いをおかしたお客様は、その場で恥ずかしい思いをすることもなく、みなが幸せな気持ちでパーティを後にしました。
会食の最中に、マナーについて断じることなく、お客様の恥を未然に防いだ女王。マナーによって人をジャッジするのではなく、ご自身の選択によって、その会に同席されたすべての人を幸せな気持ちへと導いています。
もちろん、お客様はこの後、女王がとった行動の真意について、周囲の誰かからお聞きになり、女王の振る舞いに感謝されたでしょう。
相手の儀礼違反や間違いに対する、女王と内親王の振る舞い
現在のイギリス王室や皇室においても、「教養としてのマナー」、「心あるマナー」をお見かけすることがあります。
十年ほど前のことです。亡くなられたエリザベス女王と、とある国の大統領夫人がバッキンガム宮殿で対面されたときのことです。
イギリスでは、女王陛下から手を差し伸べられる前に、自ら女王のお体に触れるのは重大な儀礼違反とされていますが、夫人はそれをご存じなかったようで、親しみをこめて女王陛下の肩に手を回されました。
その瞬間、一斉にカメラのフラッシュがたかれました。この写真が記事になれば、イギリス国民から「大統領夫人は、大変無礼である」と批判されかねない事態です。
けれども、エリザベス女王は、カメラマンがシャッターを押すその瞬間、大統領夫人の腰に、ご自身の手をまわされ、夫人のマナー違反をカバーされたのです。女王の振る舞いは緊張の場面を一瞬であたたかいシーンへと変えました。
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