何をするにしても、必ず一回だけ。
とりあえず何となく仕事を始めてみて、もし気に入らなければあとで修正をすればいいや、と思ってはいけません。そういう気持ちで仕事をすると、本気になれるわけがありませんから。
何をするにしても、必ず一回だけ。
一回ですべてを完了させてやると思えばこそ、真剣に取り組もうという意欲も生まれるのではないでしょうか。
吉田兼好は、『徒然草』の中で、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」と戒めています。「二回目の矢でうまく当てればいい」と思っていると、初回の矢になおざりの心が生まれてしまうからです。「最初の矢で決めてやる」という気持ちを持たなければダメですよ、という教えなのですが、これは仕事にも当てはまります。
モネの複製版画の心理学実験で分かったこと
たとえば、資料をつくるときには、推敲してはいけません。
「一回ですべてを完了させるのだ」と思って取り組んだほうが、絶対によいものができあがります。
心理学的にいうと、「もう変更が利かない」ときのほうが、満足度も高くなります。
一回だけのほうが、仕事に満足できるのです。
アメリカ・ハーバード大学のダニエル・ギルバート氏は、モネの複製版画を5枚用意し、好きな順番に並べてもらいました。
それから「3位と4位の複製版画はあまっているので、どうぞ1枚だけ記念にお持ち帰りください」と伝えました。
当然、ほとんどの人は自分が3位に選んだものを持ち帰ったわけですが、このときギルバート氏は、一部の参加者には、「あとで気に入らなければ交換もできますよ」と伝え、残りの人には、「もう交換はできない」と伝えました。
それから数週間後、自分がもらった絵にどれくらい満足したかを聞くと、「交換できない」と言われたグループの人のほうが自分の選択に満足していたのです。
この実験は、『明日の幸せを科学する』(熊谷淳子訳/早川書房)に出ているものですが、「断ちきる」効果を実証しているといえます。
何度もあとでやり直しや、取り返しがつくと思うと、人は満足できなくなるのです。
仕事をするとき、何となくダラダラしてしまう人は、「一回だけで決めてやる」という意識が薄いのではないでしょうか。二の矢を頼みにしていたら、初回の矢になおざりの心が生まれるに決まっています。
かりに何度でも仕事をやり直すことができるのだとしても、心の中では一発勝負だと思っていたほうがいいですよ。そのほうが取り組む姿勢も断然変わってきますからね。