2010年代のアメリカでは、オバマ政権の下、有色人種、LGBTの権利向上の動きが加速しました。しかし、そこにはある種の「ねじれ」がつきまとっていました。それが、2017年のトランプ大統領誕生により一気に噴出することになります。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書『アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望』(祥伝社)より解説します。
批判すら「ひとつの商品」に過ぎないという現実
「お金を稼げ、ブラックマン、ブラックマン」と歌い、黒人エンターテイナーとしての自分にさえ、批判の目を向けるチャイルディッシュ・ガンビーノ。そこにはマイノリティ擁護の言説によっても変わらない現状があるとウィルモアは感じ、次のように述べる。
「このミュージックビデオが本当に面白いのは、誰もが『共犯者』として批判の対象となっているからだと思います。そしてそこにはグローバー自身も含まれているのです。
この曲の中に『金を稼げ』と言い続けている部分があるのですが、これは、アメリカン・ドリームや資本主義的な成功について歌っているのです。彼はグッチなどの高級品を持ったところで、社会に受け入れられるようになるわけではないと言っています。
成功は身を守ることにはなるけれど、社会構造のレベルで物事を変えることはできません。黒人の有名人や黒人の物語がスクリーン上でよく見られるようになったからといって、現実の生活は変わらない、ということを表現しているのです」
「カウンター」という形で、現実に立ち向かってきたはずのアメリカン・サブカルチャー。
しかし、カウンターも「アメリカ流資本主義」の中、一つの商品に過ぎない現実がそこにあった。
丸山 俊一
NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー
NHK エンタープライズ
エグゼクティブ・プロデューサー
慶應義塾大学経済学部卒業後1987年NHK入局。ディレクターとしてフランス、イタリア、ロシアなどヨーロッパ取材をベースに多くの教養特集を構成、演出。プロデューサーとして「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ニッポン戦後サブカルチャー史」などの異色エンタメを企画開発、現在も「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズの他、時代の変化を読み解く教養ドキュメントをプロデュースし続ける。著書『14歳からの個人主義』『14歳からの資本主義』『結論は出さなくていい』『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』他、制作班との共著に『欲望の資本主義1~6』『欲望の民主主義』『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』『AI以後』『世界サブカルチャー史欲望の系譜 アメリカ70-90s「超大国」の憂鬱』他多数。東京藝術大学客員教授も兼務、社会哲学を講じる。
撮影:梅谷秀司
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連載アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望