なぜ「有色人種・LGBTの人権保障」が前進しても「差別」が根強く残り続けるのか?映画が暴いた恐るべきアメリカの「差別社会の正体」

なぜ「有色人種・LGBTの人権保障」が前進しても「差別」が根強く残り続けるのか?映画が暴いた恐るべきアメリカの「差別社会の正体」
(※写真はイメージです/PIXTA)

2010年代のアメリカでは、オバマ政権の下、有色人種、LGBTの権利向上の動きが加速しました。しかし、そこにはある種の「ねじれ」がつきまとっていました。それが、2017年のトランプ大統領誕生により一気に噴出することになります。NHKエンタープライズ エグゼクティブプロデューサーの丸山俊一氏が著書『アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望』(祥伝社)より解説します。

「表層だけでは捉えられない時代」を描いた作品

白人のガールフレンドであるローズの実家を初めて訪ねた黒人青年クリス。恋人の家族や親戚に紹介されるが、次第に奇妙な感覚に陥る。

 

ローズの一家は父が脳外科医、母がセラピストの裕福な家庭であり、広大な屋敷に黒人の使用人を雇っている。「オバマの3期目があるなら投票する」というリベラルな考え方を強調する父ディーンだったが、アーミテージ家や使用人の行動はどこか変だとクリスは感じる。

 

翌日、パーティーが開催されるが、そこに集まったのは裕福な白人ばかり。彼らはクリスに興味津々の様子で「時代は黒だよ」などと言っている。そんな中、唯一の黒人参加者であるローガンは、突然クリスに襲いかかり「出ていけ!(Get Out)」と叫ぶのだった。

 

黒人への理解を示す白人たちの言葉が、じっとり不気味さを醸し出す。その背景にあるものをウィルモアはこう指摘する。

 

「『ゲット・アウト』での悪役のキャラは、味方だと主張する人たちです。『できるものなら3期目もオバマに投票したよ』という有名なセリフがありますよね。つまり、彼らは自分たちが問題の一部ではなく、解決策の一部であると考えているのです。

 

しかし彼らの計画は、黒人の体を乗っ取ることです。愛情の名のもとにと言わんばかりに。それが、奴隷制度の歴史と相似しているのです。ただのあからさまな人種差別の描写ではなく、アメリカ人の共犯関係を表しているのです」

 

美辞麗句が表層を覆う社会の怖さをあぶりだすかのような表現が、リベラルを装う人々を青ざめさせた。

 

表層だけでは捉えられない、ねじれた時代。そんな時代の空気を表したミュージックビデオが話題を呼ぶ。ドナルド・グローバーの名で、俳優、コメディアン、作家としてマルチな活躍するチャイルディッシュ・ガンビーノの「ThIs Is America」だ。

 

ネット上に公開されると、24時間で、1290万回の再生回数を記録。わずか10日で、1億回を超える。

 

様々なメタファーを使い、アメリカの差別社会、そして銃社会を痛烈に描いたこのミュージックビデオ。その解釈をめぐっては、様々な意見が飛び交った。

次ページ批判すら「ひとつの商品」に過ぎないという現実
アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

アメリカ 流転の1950ー2010s 映画から読む超大国の欲望

丸山 俊一

祥伝社

欲望の正体を求めて。想像力の旅が始まる。 NHK「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」アメリカ編を 完全書籍化 番組では放送されなかったインタビューも収録 理想、喪失、そして分断 アメリカはどこへ行こうとしているの…

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