「表層だけでは捉えられない時代」を描いた作品
白人のガールフレンドであるローズの実家を初めて訪ねた黒人青年クリス。恋人の家族や親戚に紹介されるが、次第に奇妙な感覚に陥る。
ローズの一家は父が脳外科医、母がセラピストの裕福な家庭であり、広大な屋敷に黒人の使用人を雇っている。「オバマの3期目があるなら投票する」というリベラルな考え方を強調する父ディーンだったが、アーミテージ家や使用人の行動はどこか変だとクリスは感じる。
翌日、パーティーが開催されるが、そこに集まったのは裕福な白人ばかり。彼らはクリスに興味津々の様子で「時代は黒だよ」などと言っている。そんな中、唯一の黒人参加者であるローガンは、突然クリスに襲いかかり「出ていけ!(Get Out)」と叫ぶのだった。
黒人への理解を示す白人たちの言葉が、じっとり不気味さを醸し出す。その背景にあるものをウィルモアはこう指摘する。
「『ゲット・アウト』での悪役のキャラは、味方だと主張する人たちです。『できるものなら3期目もオバマに投票したよ』という有名なセリフがありますよね。つまり、彼らは自分たちが問題の一部ではなく、解決策の一部であると考えているのです。
しかし彼らの計画は、黒人の体を乗っ取ることです。愛情の名のもとにと言わんばかりに。それが、奴隷制度の歴史と相似しているのです。ただのあからさまな人種差別の描写ではなく、アメリカ人の共犯関係を表しているのです」
美辞麗句が表層を覆う社会の怖さをあぶりだすかのような表現が、リベラルを装う人々を青ざめさせた。
表層だけでは捉えられない、ねじれた時代。そんな時代の空気を表したミュージックビデオが話題を呼ぶ。ドナルド・グローバーの名で、俳優、コメディアン、作家としてマルチな活躍するチャイルディッシュ・ガンビーノの「ThIs Is America」だ。
ネット上に公開されると、24時間で、1290万回の再生回数を記録。わずか10日で、1億回を超える。
様々なメタファーを使い、アメリカの差別社会、そして銃社会を痛烈に描いたこのミュージックビデオ。その解釈をめぐっては、様々な意見が飛び交った。