1つの問題に複数の解決方法を用意する
ジダンが監督として実績をあげているのは、選手のコントロールの仕方が絶妙であることと戦術のオプションをいくつも持っていることにあるようです。試合の局面によって柔軟に戦い方を変えることができるのです。
ゴルフのティーチングにおいても、答えは1つではありません。1つの方法に固執するのではなく、いくつかプランをつくっておくことが必要です。ゴルフは地形や天候以外にメンタルな部分でも変化が生じやすいので、状況が変わったときを想定して複数の解決策を用意しておくことはとても大事なことです。
ゴルフティーチングの場合、典型的な成功事例から導かれた手法なら効果がすぐに出る場合もありますが、その解決方法が合わない人には効果がありません。だからこそ、ティーチングにおいては複数の解決策が必要なのです。
実際の指導において、スイングの問題を解決するために、さまざまな面から分析していかないと矯正はうまくいきません。クラブの握り方やスタンスのとり方など、その個性に合わせていくつもの解決策を持っておくことは指導者としての必須条件です。
私の指導の際、最初に1つの方法を提案して試してもらいますが、相手が「これは自分には合わないんじゃないか」という反応を示す場合があります。こうした場合には、Aという方法で納得できないなら、Bという方法を提案してみます。それ以外にもCという方法も持っておくようにします。
重要なことは、指導を受ける側が自分の取り組み方が適切ではないと気づくこと。その気づきを与えるのが指導者の仕事と言っていいでしょう。そのために、複数のプランを持ち、いろいろな角度から指摘してあげることで間違いに気づいてもらうようにするわけです。
Aという方法を私が「正しい」と主張するだけでは何の意味もありません。相手に気づきを与えるためには、複数の解決法を準備しておくことが不可欠なのです。
「気合を入れろ」でモチベーションは上がらない
ある人に聞いた話です。
スポーツクラブで、高齢者専門のトレーナーが家族に無理やり連れてこられた父親に指導をするのですが、筋トレなど必要ないと言って、頑なにトレーナーの言うことに耳を貸しませんでした。せめてスクワットでもはじめましょうと言っても言うことを聞かない。
では、ここに座ってくださいと椅子を差し出し、「座ったところで立ち上がってください」と言いながら、「これってスクワットなんですよ、こんな簡単なことで筋肉が自然と鍛えられるんですよ」と伝えたそうです。こうして体を動かすことは気持ちがいいことだとわかったその人は、それから嬉々としてトレーニングをはじめたそうです。
相手をよく見て、目的に応じた方法をいくつもの選択肢からチョイスし、効果が出そうな方法を提示できることが良い指導者だということです。
指導する側からすると、無理にでも言うことをきかせてしまうのが一番楽です。それがエスカレートしたのが体罰でしょう。Aという1つの指導方法しか持っていないと、相手に受け入れられない場合、他に選択肢がないから強硬策に出てしまいます。選択肢がないことの悲劇です。
ひと昔前は、ことあるごとに「気合を入れろ」と叫ぶ指導者が権勢を振るっていました。いまとなってはお笑い種とさえ言えますが、気合を入れるために何をしたらいいのかがわからないから、「とにかく走れ」ということになります。「気合を入れろ」「気持ちを込めろ」と言われたからモチベーションが上がるわけではありません。
そもそも、モチベーションを上げるために何をするのか、チームの士気を高めるためには何が必要かが合理的でないと指導を受ける側は動きが取れません。指導する側も何が必要かを考えていないため、精神論で片付けようとするわけです。指導で絶対あってはいけないのは、恐怖を与えてコントロールすることです。
恐怖を与えても、状況は変わりません。最悪、逃げるか萎縮するかして動けなくなります。