Googleが博士号を持つ人を好むのに対し、イーロン・マスクは博士課程に進んで中退した人物を好む傾向にありました。そして、常識やルールについては「疑う」のが当たり前のことでした。経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏が著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)で解説します。

「ペイパル・マフィア」と呼ばれる人材

■「本気で」信じろ!「本気で」信じている人だけが、世界を変えられるんだ

 

1999年、Zip2を売却して2200万ドル(約30億円)を手にしたマスクは、その一部をマクラーレンのスポーツカーや小型ジェット機の購入にあてたものの、大半を世界初のインターネット銀行の一つとなる「Xドットコム」の創業に投じている。

 

マスクは早い時期から既存の銀行のあり方に不信感を抱いており、「なぜインターネットの時代に、わざわざ銀行の窓口に足を運ぶ必要があるのか?」という疑問を持ち続けていた。

 

今思えば当たり前の話だが、当時、そんなことを考えている人は多くはなかった。

 

たとえ疑問を感じたとしても、歴史があり潤沢な資金を持ち、多くの顧客を抱える金融業界に対して戦いを挑もうという人間はいなかった。

 

しかし、マスクの掲げたこのビジョンに、すぐれたエンジニアや金融のプロが共鳴して集まったことで、マスクはXドットコムの創業に成功する。

 

ただ、集まった4人は「銀行業界が時代遅れの産業である」という点では一致したものの、「では、どうするか」に関してのアイデアはなかった。

 

また、金融業界にはたくさんの規制があり、ネット銀行の設立は容易に認められる状況にもなかった。こう振り返っている。

 

「4~5ヶ月経っても、打開の糸口が見えなかった」

 

やがて創業メンバーが1人抜け、2人抜けし、結局マスクと数人の社員だけが残ることになった。

 

ある社員が当時を振り返ってこう話している。

 

「今にして思えば異常としか言えませんね。素人がハリウッド映画をいきなりつくるようなものなんだから」

 

壮大なビジョンと、楽観的過ぎるスケジュールはマスクのいつものやり方だが、さすがに相手が金融業界となると簡単にはいかなかった。

 

しかし、ここでも「間違っているのは金融業界で、自分は正しいことをやろうとしている」という「鋼のメンタル」を持つマスクは、がんばり続ける。

 

1999年11月下旬、ついにXドットコムは銀行サービスを開始、開業から数ヶ月で20万人以上が口座を開設するほどの大盛況だった。売りは「送金先のメールアドレスを入力するだけで送金が完了する」というサービス内容にあった。

 

その時、同じようなサービスを展開していたのがマックス・レプチンとピーター・ティールが創業した「コンフィニティ」である。同社は電子メールアカウントとインターネットを利用した決済サービスの「ペイパル」を開発していた。

 

当時のアメリカでは個人的な売買では小切手や郵便為替を使った代金決済が中心で、インターネットで売買は素早く行なえたとしても、代金のやり取りに時間がかかるという欠点があった。

 

しかし「ペイパル」は、こうした問題を解決した。そして個人同士が様々な品物を売買するネットオークションサイト「イーベイ」にとって、このサービスは願ってもないものだった。

 

Xドットコムとコンフィニティは似たようなサービスを提供していたため、当初は激しい顧客獲得合戦を展開した。

 

が、やがて両社は「むしろ手を組んだ方がいいのでは」ということに気づき、2000年3月に合併する。最大株主のマスクが会長(後にCEО)となり、ティールは最高経理責任者(CFO)に収まった。

 

しかしその後、両者は激しい権力闘争を繰り返す。

 

その結果マスクは「ペイパルの乱」によってティールにCEOの座を奪われるという屈辱を味わうのだが、2人とも人材に関しては非常によく似たある考えを持っていた。

 

求める人材は、自分たちに似たタイプ。つまり、豊富な知識を備え、極度の負けず嫌いで、数ヶ国語をあやつり仕事中毒。さらに卓越した数学力と、反権力的な思考の持ち主だった。

 

頭のいい人を好むという点では両者ともグーグルともよく似ていたが、グーグルが博士号を持つ人を好むのに対し、マスクやティールは博士課程に進んで中退した人物を好む傾向にあった。

 

そして、常識やルールについては「疑う」のが当たり前のことであり、ルールや規制などお構いなしに自分たちが正しいと信じることをやるのが2人のやり方だった。

 

様々な戦いや確執はあったものの業績は順調に推移、2002年には株式を公開して、時価総額は12億ドル(約1620億円)に達した。

 

そして、ペイパルはイーベイによって買収され、最も高額の1億6500万ドルを手にしたマスクを始め、ティールやレプチンといった創業メンバーもペイパルを離れ、新たに起業したり、投資家への道を進むことになった。

 

特にティールはヘッジファンドを設立して、いずれもペイパル出身者が創業したリンクトイン、ユーチューブ、イェルプなどに投資して大成功した。

 

ティールはその後、かつてのライバルだったマスクのテスラやスペースXにも投資している。それゆえ、彼らは「ペイパル・マフィア」ともよばれている。

 

今話題のChatGPTを開発した米・オープンAIの創業にもマスクとティールは深く関わっている。

 

マスクは金融業界の常識に挑み、ペイパルによって大成功を収めたことで、自分のやり方への自信と、大金を手にすることになった。

 

世界を変えられるのは、「本気で」世界を変えられると信じている人間だけ。

 

これがマスク流「非常識な」仕事術である。

 

桑原 晃弥
経済・経営ジャーナリスト

 

 

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※本連載は桑原晃弥氏の著書『イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術

イーロン・マスク流 「鋼のメンタル」と「すぐやる力」が身につく仕事術

桑原 晃弥

プレジデント社

世界一の大富豪にして、ツイッター買収騒動を起こし、「日本消滅」をツイートした男、イーロン・マスク。2022年版『フォーブス』の長者番付で、マスクは「世界一」の座に輝いた。総資産は2190億ドル(約30兆円)と、2位のアマゾ…

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