不動産投資が節税になるのはなぜ?
不動産投資はなぜ節税になるのでしょうか? その理由は「減価償却」にあります。
まず所得税の不動産所得は、「不動産収入-必要経費=不動産所得」で計算されます。不動産収入は家賃収入・礼金・更新料などであり、必要経費は建物等の減価償却費、固定資産税、火災保険料、修繕費などとなります。この必要経費のうち、減価償却費は建物等の取得費を購入した年の必要経費として全額計上するのではなく、耐用年数に応じて、年ごとにその取得費を費用として振り分けることとなります。
建物等の取得費は多額なので、減価償却費は必要経費の大部分を占めることになります。このため、減価償却をうまく活用することにより不動産所得を赤字とし、給与所得といった他の所得と通算することで所得税額を軽減することができます。
建物の減価償却費は不動産投資における節税の重要ポイントとなるため、減価償却の仕組みは、不動産投資家として押さえておくべき大事な知識です。以下で、この「減価償却を活用して節税できる額」について簡単に紹介しましょう。
減価償却とは?
①そもそも減価償却とは
投資用物件などの事業用不動産やその付属設備は、経年劣化して価値が減っていく「減価償却資産」です。
減価償却資産の取得費は、取得したときに全額を必要経費として計上するのでなく、使用可能な期間(=法定耐用年数)に応じて分割し、毎年経費として計上していきます。この手続きを減価償却といいます。建物には、その構造等に応じて、税法によって定められた耐用年数があります。一般的には、この法定耐用年数に基づき減価償却を行っていきます。
②減価償却の計算方法
減価償却の方法には「定額法」と「定率法」の2種類があります。税法により、建物は「定額法」で減価償却を行うことが定められています。また、建物付属設備と構築物についても、平成28年4月1日以後に取得したものであれば「定額法」で償却することと定められています。
定額法とは、毎年同じ金額で減価償却を行っていく方法です。定額法は次の計算式で求められます。
【取得価額×定額法の償却率=減価償却費】
建物の耐用年数は、住宅用の場合、鉄筋コンクリ-トだと47年、木造だと22年です。また建物附属設備となる電気設備や衛生設備、ガス設備などの耐用年数は15年となります。
節税に有利な物件とは?
節税面で有利なのは、新築よりも中古物件です。
たとえば新築物件を購入した場合は法定耐用年数を用いることになりますが、中古物件を購入した場合、その耐用年数は法定耐用年数ではなく、一定の計算式で求めることになります。
新築物件を購入した場合の償却額と、中古物件を購入した場合における耐用年数の求め方と償却額は、次のとおりです。
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<条件:木造アパ-ト(法定耐用年数22年)を6,000万円で購入>
(1)新築として購入した場合
耐用年数22年なので、定額法償却率は0.046*です(*国税庁『減価償却資産の償却率等表』より)。よって減価償却額は、取得費6,000万円×定額法償却率*0.046=276万円となります。
(2)築11年の中古物件として購入した場合
法定耐用期間の一部が経過した中古物件を取得した場合、耐用年数を求めるには、その法定耐用年数から経過した年数(築年数)を引き、そこに経過年数の20%に相当する年数を加えます。算出された耐用年数に1年未満の端数があれば切り捨てます(ただし、算出された耐用年数が2年未満だった場合には「2年」とします)。
実際に計算すると、法定耐用年数22年-経過年数11年+11年×0.2=13年(端数切捨)。耐用年数13年なので、定額法償却率は0.077*となります。
よって減価償却額は、取得費6,000万円×定額法償却率0.077=462万円です。
(3)築22年の中古物件として購入した場合
法定耐用期間を超えた中古物件を取得した場合、耐用年数は、その法定耐用年数の20%に相当する年数となります。
実際に計算すると、法定耐用年数22年×0.2=4年(端数切捨)。耐用年数は4年なので、定額法償却率は0.250*です。よって減価償却額は、取得費6,000万円×定額法償却0.250=1,500万円となります。
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上記のように、(1)新築物件で購入した場合、(2)法定耐用期間の半分を経過した状態で購入した場合、(3)法定耐用年数を超えた状態で購入した場合とでは、減価償却額に大きな違いがあることがわかります。
新築の木造アパートを購入した場合、減価償却額は276万円です。一方、法定耐用年数を超えた中古木造アパートを購入した場合、簡便法といって、法定耐用年数の20%相当(法定耐用年数×0.2)で計算し、1年未満の端数を切り捨てた数を耐用年数として計算してよいという規定があります(ただし、2年未満と算出された場合は「耐用年数2年」として計算します)。すると耐用年数は4年となり、最終的に減価償却額は1,500万円と、多額に計上することができます。
年収別の「節税できる額」
上記の木造アパ-トの場合、新築物件と法定耐用年数を経過した物件とでは、減価償却額が1,224万円も大きく異なることがわかりました。必要経費がこれだけ違うと、不動産所得は大きく減少することとなります。たとえば上記の減価償却等を活用したことで不動産所得に1,000万円の赤字が出て、他の給与収入等と合算した場合、どれだけの節税になるのでしょうか? 例として、年収ごとの節税額を見てみましょう。
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<所得税の概算額:単身者・40歳の場合>
(1)給与収入が1,500万円の場合、所得税は約341万円です(課税所得1,500万円×所得税率33%-控除額153万6,000円)。しかし不動産所得の赤字額(1,000万円)と通算すると課税所得は500万円になるので、所得税は約57万円です(課税所得500万円×税率20%-控除額42万7,500円)。よって、節税額は284万円です。
(2)給与収入が1,000万円の人の場合、所得税は約176万円です。しかし不動産所得の赤字額(1,000万円)と通算すると課税所得は0円になるため、所得税も0円です。よって節税額は176万円となります。
(3)給与収入が500万円の人の場合、所得税は約57万円です。不動産所得の赤字額(1,000万円)と通算すると課税所得は0円になるため、所得税も0円です。よって節税額は約57万円となります。
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このように、年収の違いにより所得税の税率が変わるため、高額所得者ほど節税額は多額となります。なお最高税率は所得税45%で住民税10%の合計55%です。また最低税率は所得税5%、住民税10%の合計15%となります。
まとめ
新築物件に比べ、中古物件の方が耐用年数を短くできる分、節税に有利であることが分かりました。しかし注意しなければいけない点もあります。
①立地等、賃貸物件として魅力的かどうか
新築物件か中古物件かだけではなく、立地等も含めて、賃貸物件として魅力的かどうかを検討しましょう。客付けができる場所でなければ、そもそもの不動産経営に影響が及びます。また、運用を終えて物件を売却する場合にも、買手がつきにくく不利になる恐れがあります。
②売却時の譲渡所得と譲渡所得税に注意
譲渡時、減価償却費は取得費から差引かれます。毎年の減価償却額が大きいと、譲渡所得と譲渡所得税は増加することになるためご注意ください。
③相続財産として残したい場合
賃貸物件を売却せず相続財産として残す場合、きちんと管理し、引き継いでくれる相続人がいるかどうかを確認しましょう。管理しなければいけない賃貸物件よりも、現金という形で相続したいと考える人もいます。
以上、今回は不動産投資による節税について簡単に説明しました。不動産投資では、減価償却の仕組みを利用して節税することができます。メリット・デメリットはありますが、ご参考になりましたら幸いです。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所 税理士、CFP
会計事務所における長い勤務経験・豊富な実務経験により、会計処理・税務処理及び経営や税務の相談など、様々な問題に対応。強みのある領域は不動産と相続関連。特に相続問題では、税金面だけでなく、家族が幸せになれるトータルな提案を重視している。宅地建物取引士、マンション管理士等の資格も保有。常にフットワークを軽く、お客様のニーズに応えるのがモットー。離島支援活動も積極的に行っている。