(※写真はイメージです/PIXTA)

トヨタやパナソニックをはじめ、国内海外問わず「同族経営」の企業は数多くあります。これは大企業だけでなく、中小企業においても同様です。しかし、社長がその座を退く際に「自分の子どもだから」と安易に後継者を選ぶのは大きなリスクがあると、相続に詳しい税理士・公認会計士の小形剛央氏はいいます。本記事では、同族経営に失敗した創業50年の老舗企業の事例をみていきましょう。

「娘だから」と無理やり承継した80歳先代

属性:サービス業(産廃)
売上:約5億円
先代経営者:80歳
後継者:43歳(娘)

 

娘と一緒に過ごせなかった…先代経営者の「後悔」

創業から50年近く経つこの企業は産廃関連会社で、ニッチな分野ではありますがクライアントや従業員からも信頼されており、着実な経営を続けていました。

 

ただ、先代経営者にはひとつだけ心残りがありました。それは、お子さんが小さい頃に一緒に過ごす時間が少なかったことです。

 

先代経営者は創業以来、一生懸命に会社経営を行っていましたが、あまりの忙しさから、「会話どころか、寝顔しか見ることができなかった」「休日も、どこにも連れていってやれなかった」「入学式や運動会などのイベントにも参加できなかった」といった思いがありました。

 

実は、こうした後悔を抱く経営者は珍しくありません。日本政策金融公庫の「2019年度新規開業実態調査」によれば、起業者の平均年齢は43.5歳。起業者のうちの36%は40代、33.4%は30代で創業し、自分自身のビジネスをスタートさせています。1991年度の調査開始時点における起業者の平均年齢は38.9歳でしたから、少子高齢化などの影響を受けて、起業の平均年齢は上昇傾向にあるといえます。

 

30〜40代といえば、子育て真っ只中の世代です。もちろん手はかかりますが、我が子が日々成長していく姿を見るのは、親にとって生きる糧ともいえるはずです。

 

しかし起業したての頃というのは多くの場合、経営も不安定で、経営者は文字どおり休む暇もない時期です。家族と過ごす時間が取れないのも当たり前で、数年あるいは十数年が経ってやっと軌道に乗ってきたという状況になり、ようやく家族のほうを振り返っても、妻や子どもとの間には大きな溝ができていた……という話も実際によく聞きます。

 

承継後、1年も経たず事業は廃止に

この事例の先代経営者も、まさに同じパターンです。「これまで会社第一の人生を送ってきたから、これからは家族のために何かしてあげたい」「そのための時間がほしい」という気持ちを強く抱き、自身が80歳に近づいたタイミングで娘さんに会社を継がせることにしました。しかし娘さんにはリーダーシップがなく、経営者としてふさわしくない人物だったのです。

 

承継こそしたものの後継者は目先の利益を優先して行動するタイプで、承継後まもなく経営に致命的な損害を与え、1年も経たずに事業は廃止となりました。その後、先代経営者も心労から持病が悪化し、お亡くなりになったのです。

 

このように、準備を何もしないまま「親族」という理由だけで後継者を選ぶと、ほぼ確実に会社が立ち行かなくなってしまいます

 

とはいえ、最初から経営者に必要な能力をすべて備えている人は、まずいません。だからこそ、承継前に経営者としての「器」や「能力」を育てる期間を設ける必要がありますが、なかには人格などの面から、経営者に向いていない人もいます。

 

先代経営者は、自分の子どものことだとフィルターがかかって正しい判断を下しにくくなるため、後継者候補を選定する段階で第三者の意見を聞くことが大切です。

 

 

小形 剛央
税理士法人小形会計事務所 所長
株式会社サウンドパートナーズ 代表
税理士・公認会計士
 

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※本連載は、小形剛央氏の著書『いきなり事業承継成功読本』(日刊現代、講談社)より一部を抜粋・再編集したものです。

いきなり事業承継成功読本

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小形 剛央

日刊現代

経営者にとって「最後の大仕事」である事業承継。しかし、「後継者が見つからない」という理由で廃業を選択するケースも増えており、無事に承継できたとしても、承継後すぐに経営が立ち行かなくなってしまう「失敗例」も多い。…

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