(※写真はイメージです/PIXTA)

親族で資金を出し合って企業を立ち上げ、売上6億円まで成長させた70歳の社長ですが、企業の株主が増え過ぎたことにより悲惨な末路を迎えることに……。本記事では、70歳社長の事例とともに事業承継の準備について相続に詳しい税理士・公認会計士の小形剛央氏が解説します。

「1株1議決権の原則」とは

株主(株式会社の出資者)は、原則的に出資割合に応じた議決権を持っています。これを「1株1議決権の原則」と呼びますが、株主総会で会社の運営について決議するには、「議決権の過半数」の賛成が必要です(=普通決議)。また、重要な事項について決議する場合は、「議決権の3分の2以上の賛成」が必要となります(=特別決議)。

 

■普通決議

発行済株式総数の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって成立する決議のこと。

 

対象:決算の承認、取締役・監査役の選任、取締役・監査役の報酬、株式の配当など

 

■特別決議

発行済株式総数の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成をもって可決となる決議のこと。

 

対象:定款の変更、営業の譲渡、減資、会社の解散・合併契約の承認など

 

株式上場していない中小・零細企業の場合、経営者が全株式を保有しているケースも多いのですが、なかには「友人・知人と立ち上げた」「兄弟姉妹・配偶者と資金を出し合った」といったパターンもあります。このような場合、ご自身で過半数あるいは3分の2以上の株を保有していれば、経営の意思決定に関わるリスクは基本的に生じません。

 

ところが、1株でも所有している株主がほかにいると、意思決定には影響は及ぼさなくとも意見は言えますし、さまざまな資料を閲覧する権利もあります。

 

つまり、1株でも持たれていると、経営者にとってはとても面倒な事態が起こるのです。

株主が多すぎて、事業承継を「断念」した製造業社長

属性:製造業(機械組立)
売上:約6億円
先代経営者:70歳
後継者:未定

 

先代経営者は、親族で資金を出し合ってこの企業を立ち上げました。本来であれば先代が若いうちに株の集約をしておくべきでしたが、そのまま時が経ち、親族の相続によって株がさらに分散してしまいました。

 

結果として経営する会社とはまったく関係のない株主が増え、なかには「経営を変えるべき」「配当がほしい」などと口を出す株主も出てきました。もちろん、彼らは株式の過半数を保有しているわけではないので意見を反映する必要はないのですが、それでも経営者にとっては結構なストレスになります。

 

親族外(従業員)承継を検討した時期はあったものの、後継者候補からは株主が多いという理由で断られ、先代経営者は「もう後継者は見つからないだろう」と、事業承継をあきらめることにしたのです。

 

こうした中小企業の株に関わる問題は、私も見てきました。事業承継前に株式を整理することが一番ですが、あまりに複雑な場合は、いっそのこと事業承継せず、一から起業することを勧めるケースもあります。

 

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※本連載は、小形剛央氏の著書『いきなり事業承継成功読本』(日刊現代、講談社)より一部を抜粋・再編集したものです。

いきなり事業承継成功読本

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小形 剛央

日刊現代

経営者にとって「最後の大仕事」である事業承継。しかし、「後継者が見つからない」という理由で廃業を選択するケースも増えており、無事に承継できたとしても、承継後すぐに経営が立ち行かなくなってしまう「失敗例」も多い。…

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