(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性の父親が亡くなり、相続が発生。相続人は母、男性、男性の姉の3人ですが、日頃から横暴な姉が、なぜか男性の預金額を追及。あまりのしつこさにうんざりしましたが、そこには姉なりの策略があったようで…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

しっかり者の父が亡くなり、姉の横暴ぶりが炸裂

今回の相談者は、50代会社員の松本さんです。急逝した父親の相続の件で相談に乗ってほしいと、筆者の事務所を訪れました。

 

松本さんは大手企業勤務の独身会社員です。都内にマンションを購入し、ひとりで生活していましたが、父が急逝したことにより、ひとり暮らしとなった母親をサポートするため、ここ最近は週のうち半分を横浜市の実家で過ごしています。

 

松本さんには姉がひとりいて、実家から車で10分程度の距離に家族で暮らしています。しかし、父が倒れたときも、母にサポートが必要なときも、自分の子どもや夫の世話で忙しいという理由で、ほとんど協力してくれなかったといいます。

 

「姉はわがままなタイプで、何事も自分中心でないと気がすまないタイプなのです。厳格な父とは相性が悪くて…。一方の母は、非常に気弱なタイプで、いつも姉に振り回されていました」

 

松本さんの姉は、しっかり者の父親には歯向かうことができなかったそうなのですが、一方、母親にはわがままばかりだったとのこと。

 

「父親が亡くなってすぐ、姉の横暴ぶりが炸裂しました。葬儀のあと、突然実家にやってきたと思ったら、〈お父さんの預金通帳やお母さんの実印、預かってあげる。お母さんに任せたままでは心配だから〉といって、母を振り切って持ち帰ってしまったというのです」

大手企業勤務・独身弟の資産状況を詮索する、姉の狙い

その後、松本さんの姉は、松本さんにも母親にも断ることなく、自分のつてで探した税理士に父親の相続手続きを一任したそうです。

 

「私は母が生活に困らなければ、なにもいうことはないんです。これまで通り住み慣れた家に暮らして、もっと年齢を重ねたら、自宅を売ってそれなりの施設に入ってもらえれば…。姉にもそう話しているのですが、姉はなぜか、〈今後のために〉と、私の資産状況にまでしつこく口をはさんでくるんです。〈効率的な遺産分割のためには、それぞれの資産状況を知っておく必要がある〉とかいって、貯金額を教えろっていうんですよ。そんなばかな…」

 

松本さんは大手企業に勤続30年。おまけに独身ですから、かなり高額な預貯金を持っていると思われているのでしょう。

 

「姉は、母親の相続の先に、私の相続も視野にいれているようです。おいめいが私の遺産を無駄なく相続する前段階として、父親と母親の相続をどうするべきか、税理士と策を練っているようで…」

 

「独身の松本さんの財産も自分たち家族のもの」という感覚なのでしょう。

 

「税理士にどんなアドバイスをされたのかわかりませんが、しつこいうえに高圧的です」

 

「正直、気分はよくないです…っていうか、ウンザリです!」

 

「だいたい、私の財産について、姉の質問に答える必要があるのでしょうか!?」

 

仕事中もひっきりなしに電話をかけてくる姉に神経を逆なでされるという松本さんは、我々を前に事情を説明しながら、次第にヒートアップしていきました。

「ご本人の資産状況は、ご両親の相続と無関係です」

「まあ、まあ…」

 

いらだちを募らせる松本さんを、筆者と税理士はなだめました。

 

今回の直近のテーマは父親の相続税の申告です。父親の財産を確認して、分け方を決め、分割協議をし、相続税の申告・納税をすることが課題です。

 

この作業をするにあたり、松本さんの資産内容は無関係ですし、まして姉に知らせる義務はありません。

 

松本さんに説明する筆者の提携先の税理士も、いささか同情的でした。

割と良識的だった、姉の遺産分割案だが…

松本さんの父親の資産状況ですが、自宅が約4,000万円、預金約6,000万円で合計1億円未満です。相続税の基礎控除を超えているため、相続税の申告は必要です。自宅を母親が相続したうえ、預金は3等分というのが姉の提案だということです。これについては、松本さん、筆者・税理士ともども、穏当なものだと考えました。

 

すべて母親が相続すれば、配偶者の特例により納税は不要ですが、家族のいる姉は、早めに相続したいということなのでしょう。

 

筆者と税理士は松本さんに、まずは姉の案に賛同し、関係を維持しながら父親の相続を終えることをお勧めしました。

 

「現時点において、松本さんの資産状況をお姉様にお知らせする必要はありません。将来のお母様の相続についても、自宅や預金をどのようにするつもりか、お母様のご意向を優先して話し合ってはいかがでしょうか」

姉の意思を確認のうえ、自分の相続についても対策を

筆者と税理士からは、父親の相続税の申告をまずは円満に終わらせ、父親亡きあとも、母親に対して姉が横暴なふるまいに出ないよう、松本さんがそれとなく気を配るようアドバイスしました。

 

松本さんは独身で子どももいないため、万一のことがあれば姉、もしくはおい・めいが相続人となります。両親の相続とは別の話として、今後、姉の意図についても確認し、ご自身の方向性を定めておく必要があるでしょう。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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