亡き母の財産は、父から相続した1棟マンション
今回の相談者は、60代の専業主婦、小川さんです。数カ月前に亡くなった、90代の母親の相続について困っているということで、50代の弟さんとともに筆者の事務所を訪れました。
「父はずっと前に亡くなり、母の相続人は、兄と弟、そして私の3人なのですが…」
小川さんが頭を痛めている母親の財産とは、50年前に父が建てた1棟マンションだということです。5階建ての鉄骨造の12世帯で、当初は小川さんの家族が最上階の5階に暮らしていましたが、1人暮らしの母親が老人ホームへ入ったタイミングで、そこも賃貸に出しています。
築古ですが、最寄り駅から近く、定期的な修繕をしていることもあり、現在は満室で稼働しています。
きょうだい間では「売却一択」で了解済みだが…
「母は常々、財産はきょうだいで等分にするようにといっていました。3人とも母親とは同居しておらず、自分たちの家を所有しているため、実家に戻る選択肢はありません。そのため、〈マンションを売却してお金を等分に分ける〉ということで、私たち3人の話はついているのですが…」
しかし、問題があるといいます。
「このマンション、父名義の土地に父が建てたものですが、建築資金などの関係で、4部屋を区分登記して、他人に売却しています。うち2部屋は売却の希望があり、兄と弟が1部屋ずつ買い取りました。結果、母親、兄、弟のほかに2部屋の所有者があり、5人で共有する状態となっているのです…」
詳しく話を聞いたところ、2部屋のうちの1つは80代の女性の所有で、このままずっと住み続けたいといわれています。もう1人は、買い取った部屋を賃貸に出しており、いずれは子どもに相続させるつもりだとのことです。
「所有者の方に〈いまなら高値で売れるから〉と事情を説明して、あくまでも相談という形でご連絡したのですが、高齢女性の方にはシクシク泣かれてしまい、賃貸されている方には着信拒否されてしまいまして。どうしようもありませんよね…」
2部屋分を買い取り1棟の状態として売却したほうが、金額的にはずっと有利になるのですが、身内ではない2人の所有者と意見が合わないため、これ以上どうすることもできません。
価格が安くなっても、現状のまま売却するしか…
このマンションは立地がいいため、建て替えればさらに賃貸事業しやすくなる可能性が高いのですが、再びきょうだい間の共有となってしまうことから、建て替えではなく、売却による遺産分割が第一選択肢となります。
所有者全員の同意がとれず、一度に売却ができない場合、現状のまま「オーナーチェンジ」という形でなら、小川さんきょうだいだけが売却することもできます。それによって換金・分割できるようになりますが、一方で、買主の同意が必須となり、価格も現況の投資効果で算定されることになります。
筆者と、筆者の事務所の提携先の税理士は、小川さんにはその方法での検討を提案しました。小川さんと弟さんも、
「その方法を選択肢に、兄を交えて相談したいと思います」
「父がもっと、先のことを考えてくれていたら…。悔しいですが、仕方ないですね」
といって事務所を後にしました。
不動産の共有は親族だけでも大変なのに、他人との共有となればなおさら困難です。早めに共有解消の方法を決めていくことが、速やかな解決につながります。上述の通り、全員の意見がそろわない場合は、部分的な売却も可能です。
マンションの区分登記はトラブルになりやすいため、建設の際はできるだけ避けるようにするのが賢明です。とくに他人との共有は慎重であるべきだといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。