母は亡くなる前日に、30代の男性と入籍していた――。今回は、前夫の娘が後夫に挑む闘いです。なかなかドラマティックですが、人生100年時代、増加が予想される事例だといえます。夫婦問題コンサルタントの寺門氏と弁護士の木野氏がタッグを組んで解決策を探します。※本連載は、小川実氏監修、寺門美和子氏・木野綾子氏の共著書籍、『別れても相続人』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

戸籍上の記載だけで「ゼロか100か」決まってしまう

寺門:木野先生、離婚時の財産分与や、不貞の慰謝料請求においては、そのご夫婦の婚姻期間の長短で金額が変わるじゃないですか。遺産分割調停において、今回のように婚姻期間が極端に短いからという理由で、配偶者の取得分を少なくすることはできないのでしょうか? どう考えてもおかしな状況ですし。

 

木野:寺門さん、鋭いご指摘です。確かに紛争の内容によっては、夫婦の婚姻期間が「もらえる金額」を左右することもあります。でも残念ながら、相続においては、婚姻期間の長さや、夫婦仲がどうだったか、別居中かどうかなどは全く考慮されずに、戸籍上の記載だけでゼロか100かが決まってしまうんです。調停になっても、本人が「1日しか夫婦じゃなかったから100分の1でいいです」などと譲らない限り、法定相続分である2分の1をもらう権利があります。

 

寺門:百ゼロ! だからよく、冷え切った夫婦関係でも、「嫌な旦那でも我慢して、死んで遺産や遺族年金が入るのを待った方がいい」と言う人もいるんですね。

 

さくら:私の場合、あの男と遺産分割の話し合いをする際に、どんな点で相手方と対立することが予想できますか?

 

木野:そうですね。再婚相手の俊輔さんからは、もしかしたらさくらさんの「特別受益」、つまり、さくらさんがお母様から生前贈与を受けたことがあれば、それを遺産の中に含めて計算せよとの主張が出るかもしれません。

 

さくら:母が病気の告知を受けた際、「私がいなくなったら、これからの生活の足しにしなさい」と、300万円もらいました。離れて暮らしていましたし、将来のことも心配してくれたのでしょう。あの男の前で渡されました。でも、これって親子なんだから当然といえば当然な気もするので、私から何か反論はできないのでしょうか?

 

木野:一応、寄与分が考えられますが、お母様の財産形成に貢献したといえることはありますか?

 

さくら:私は昔から手先が器用なので、何年も前から月に1回、母にネイルをしてあげていました。ネイルの相場は1回8000円前後です。また、病気になってからはヘアカットもしてあげていました。美容院なら5000〜6000円するんじゃないでしょうか? 母はショートカットだったので、こちらも2か月に1回はしていましたよ。料理が苦手な母のために、作り置きも数え切れないほどしています。お手伝いさん代わりだったと言ってもいいくらいです。

 

木野:とても素敵なエピソードですが、金額的にはずいぶん細かいお話のようですね。でも一応、言ってみたらどうでしょう? 「法的に認められないかもしれないから言うのは我慢しなさい」という弁護士もたくさんいますが、私は「悔いのないよう、言いたいことは全部言ってみましょう。ただし、ダメ元ですよ」というスタンスです。

 

さくら:ありがとうございます! ダメ元でも主張したいです。ところで、母とあの男が夫婦なら、私もあの男の娘になるのですか? あの男が死んだら、相続できるのでしょうか?

 

寺門:それは「親の再婚あるある」で、よく誤解される話ですよね、木野先生。

 

木野:はい。親の再婚相手とは、養子縁組手続きをしない限り、当然には親子関係は生じないので安心してくださいね。

 

さくら:あ〜、よかった。私にはあの男と親子関係になるなんて耐えられませんから。

 

寺門:今回のケースは深く考えさせられました。お祖母様や伯母様は、自分の娘、妹の死を目の前にして、「せめて最後は好きな人と夫婦にさせてあげたい」という気持ちで、婚姻届にサインをしてあげたのでしょう。しかし、その安易な気持ちが大変な事態を招いてしまいましたね。

相続に「離婚・再婚」が及ぼす影響をよく考えて

家族問題を扱っている専門家のひとりとして、「情」と、「資産」や「権利」を守ることは切り離さなくてはいけないと、常々考えさせられます。今回もそのケースでした。

 

家族が余命宣告をされたからといって、いきなりエンディングノートや遺言書を書いてくれとは言いづらいでしょう。また、そんな最中、相続の勉強をしましょうとも言えません。実際に不可能でしょう。だからこそ、繰り返しになりますが、相続について、元気なうちに学び、対策を講じて欲しいと思います。特に「離婚×(再婚×)相続」では将来的にどんなことが起こるのか、注意深くシミュレーションする必要があります。

 

 

寺門 美和子
 AFP/上級プロ夫婦問題カウンセラー/相続診断士/終活カウンセラー/公的保険アドバイザー

 

木野 綾子
弁護士/上級相続診断士/家族信託専門士/終活カウンセラー

 

小川 実(監修)
税理士/上級相続診断士/終活カウンセラー

 

図版:秋穂 佳野

 

※本連載は、小川実氏監修、寺門美和子氏・木野綾子氏の共著書籍、『別れても相続人』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

別れても相続人

別れても相続人

寺門 美和子 著, 木野 綾子 著, 小川 実 監修

光文社

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