●連合は春闘で5%程度の賃上げ要求を決定、インフレを上回る賃上げが実現されるか注目される。
●東京商工リサーチの調査では8割の企業が賃上げを予定、ただし、賃上げ率5%以上は3割未満。
●日本の賃金伸び率の低さは世界でも突出、改善には雇用制度や、社会保障制度の改革も一案。
連合は春闘で5%程度の賃上げ要求を決定、インフレを上回る賃上げが実現されるか注目される
労働団体の「連合」は2022年12月1日に「2023春季生活闘争方針」を確定し、基本給を底上げするベースアップ(ベア)で3%程度、定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ要求を5%程度に設定しました。ベアの要求は10年連続で、定昇込みの5%程度という水準は、5%~6%を求めた1995年以来の高水準となります。連合に加盟する労働組合は、この方針をもとに2023年2月末までに経営側に要求書を提出し、その後、労使交渉が本格化します。
なお、連合によると、2022春季生活闘争(春闘)では、ベアと定昇を合わせた平均賃上げ率は2.07%となり、3年ぶりに2%を上回ったものの、4%程度の要求を大きく下回る結果となりました。現在、消費者物価指数(生鮮食品を除く2022年12月分)は前年同月比で4.0%上昇し、41年ぶりの4%台となっていることから、今回は物価上昇率を上回る賃上げが実現されるか否かに、注目が集まります。
東京商工リサーチの調査では8割の企業が賃上げを予定、ただし、賃上げ率5%以上は3割未満
こうしたなか、東京商工リサーチは、「賃上げに関するアンケート」調査を実施し、その結果を2月20日に公表しました(2月1日~8日にインターネットによるアンケート調査、有効回答4,465社を集計、分析)。2023年度の春闘で賃上げ予定の企業は80.6%と、2年度連続で8割台に乗せました。規模別では、大企業(資本金1億円以上)が85.5%、中小企業(同1億円未満、個人企業等を含む)が80.0%と、5.5ポイントの差がつきました。
産業別では、製造業が85.9%と最も高い一方、不動産業が61.6%と最も低く、大きな差が出ました。また、賃上げ率を聞いたところ、「3%以上4%未満」と回答した割合が29.9%と最も高く、次いで、「2%以上3%未満」が23.4%、「5%以上6%未満」が20.3%でした(図表1)。5%以上の賃上げ予定企業の割合は29.2%と、3割を下回りましたが、前回調査(2022年10月実施)の4.2%から、大幅に増加しています。
日本の賃金伸び率の低さは世界でも突出、改善には雇用制度や、社会保障制度の改革も一案
賃上げの内容については、「定昇」と回答した割合が77.7%と最も高く、次いで「ベア」が50.0%、「賞与(一時金)の増額」の35.2%でした。ベア実施予定企業の割合は、全体の半数にとどまりましたが、前回調査の39.0%から増加しました。以上より、賃上げに向けた動きは前回調査から強まっている模様ですが、連合が掲げる5%程度の賃上げ要求が全体として満たされるのは難しいように思われます。
この点を踏まえると、賃金の上昇を伴う形での物価安定を目指すとしている日銀が、早期利上げに踏み切る公算は小さいと推測されます。なお、依然として日本の賃金伸び率の低さは、主要先進国のなかでも突出しています(図表2)。この状況を改善するには、企業が賃金を増やせるような環境、家計が増えた賃金を将来の不安なく消費に回せるような環境の整備が必要であり、そのためには、雇用制度や社会保障制度の構造改革も一案と考えます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『国内企業の「2023年度賃金」はどれくらい上がりそうか?【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト