(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●植田氏は1999年に時間軸政策を推し、2000年のゼロ金利解除はもう少し待ちたいとして反対。

●2005年の著書や最近の寄稿では緩和の副作用に目配りしつつも拙速な引き締めの回避を提言。

●植田氏新総裁ならYCC形骸化とマイナス金利継続の可能性も、まずは24日の所信聴取に注目。

植田氏は1999年に時間軸政策を推し、2000年のゼロ金利解除はもう少し待ちたいとして反対

今回のレポートでは、日銀の次期総裁候補となった植田和男氏の金融政策スタンスについて、過去の発言や著書、寄稿などから探ります。植田氏は1998年4月から2005年4月までの7年間、日銀審議委員を務めました。日銀は1999年2月にゼロ金利政策の導入を決定し、同年4月には時間軸政策の採用を表明しましたが、当時の金融政策決定会合議事録をみると、植田氏が時間軸政策を積極的に推していたことが分かります(図表1)。

 

(注)金融政策決定会合議事録に記された主な発言<br>(出所)日銀の資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]日銀審議委員当時の植田氏の主な発言 (注)金融政策決定会合議事録に記された主な発言
(出所)日銀の資料を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

また、日銀は2000年8月にゼロ金利政策の解除を決定しましたが、植田氏はこの時、反対票を投じました。植田氏の見解は、やはり当時の金融政策決定会合議事録で確認することができ、「景気が底を打って反転に向かい、その持続性についてある程度の自信が持てれば、景気上昇に合わせて金融政策を微調整するという意味で利上げを始めることが正しい方法かと思う」と述べ、ゼロ金利政策の継続を主張しました。

2005年の著書や最近の寄稿では緩和の副作用に目配りしつつも拙速な引き締めの回避を提言

植田氏は日銀審議委員退任後に執筆した著書「ゼロ金利との戦い」(日本経済新聞出版社、2005年12月)で、時間軸政策を解説し、「より長めの金利に低下圧力を及ぼす」効果を示しています。また、いわゆる出口戦略について、「経済がある程度プラスの金利に耐えられるような力をつけたと判断できて初めて出口を出る」ことになり、「量の削減に着手してから比較的速やかに、はっきりとプラスの金利に持っていくのが自然」と述べています。

 

2018年8月の日本経済新聞「経済教室」への寄稿では(図表2)、長期化する異次元緩和の副作用を指摘し、それに「目配りしつつ、粘り強く現行の緩和策を続け、物価の上昇を待つこと」を提言しました。また同じく2022年7月の寄稿では、現行の異次元緩和は「微調整に向かない枠組み」であり、一時的なインフレ率の上昇で「政策を正常化方向へ微修正すると」、「経済やインフレ率にマイナスの影響」を及ぼすと指摘しました。

 

(注)日本経済新聞「経済教室」への寄稿における主なポイント。<br>(出所)日本経済新聞社の記事を基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]植田氏の寄稿の主なポイント (注)日本経済新聞「経済教室」への寄稿における主なポイント。
(出所)日本経済新聞社の記事を基に三井住友DSアセットマネジメント作成

植田氏新総裁ならYCC形骸化とマイナス金利継続の可能性も、まずは24日の所信聴取に注目

以上を踏まえると、植田氏の金融政策スタンスは、①時間軸政策(現在フォワードガイダンスという呼称が一般的)を重視、②拙速な利上げには慎重、③異次元緩和の副作用を認識しつつも粘り強い緩和が必要、と推測されます。なお、弊社はイールドカーブ・コントロール(YCC)は4月にも許容変動幅が再拡大され(上下0.5%程度から1%程度への拡大で事実上形骸化)、マイナス金利政策はしばらく維持されるとみています。

 

仮に植田氏が次期総裁に就任した場合、この可能性は高まるのではないかと考えています。衆議院は今週24日、議院運営委員会で午前に植田氏、午後に次期副総裁候補の氷見野良三前金融庁長官と内田真一日銀理事から所信を聴取し、与野党が質疑を行います。3名から市場のサプライズとなるような発言はないと思われますが、金融政策についてそれぞれの基本的な考え方を理解する上で、重要な機会となります。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『植田日銀総裁候補の「金融政策スタンス」について考える【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

 

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