退職金で投資デビューしてはいけない
「超低金利の普通預金や定期預金で退職金を管理するのはもったいない」と思うかもしれませんね。若いころから投資を続けてきて、投資のリスクを十分承知しているという人なら、退職金で投資をするのもいいでしょう。
しかし、多くの人は投資の経験も知識もありません。いきなり、退職金で投資デビューすれば絶対に失敗します。100%といってもいいでしょう。「人気のあるおすすめ商品ならばそこそこ稼げるだろう」と思っているかもしれませんが、そんな甘いものではありません。投資には、最低限の知識と、それ以上に強いメンタルが必要なのです。
投資がうまくいかない最大の原因は、感情のコントロールが利かなくなることです。
「投資なんて安いときに買って高いときに売ればいいんでしょ?」と簡単にいう人がいます。しかし実際は、価格が下がるとほとんどの人は、うろたえて損しているのに売ってしまいます。反対に、上がるとうれしくなって買い増しをします。感情を抑制できないと、結局高く買って安く売るという失敗を繰り返すことになります。
投資に耐えうるメンタルを作るには、「3割ぐらい減ってもいい」と思う金額までの範囲で始めて暴落を経験し大いに失敗することです。そう、失敗しないと学べないのです。
たとえば、毎月1万円ずつ3年間投資したとします。その間に3割ぐらい暴落して、慌てて売ってしまったとしても、損するのは36万円のうち10万円程度です。それで生活が破綻することはありません。悔しいけれど、「今回の判断は失敗だった」と学べるでしょう。
損失を出しても若いころなら、働いてまた稼げばいいわけです。しかし、定年退職後には巻き返しの時間はないのです。退職金2,000万円を一気に投資して、700万円減ってしまったとなれば、もう取り返しがつきません。
くれぐれも退職金全額を投資につぎ込むのはやめてください。
定年後の投資は購買力を維持することが重要
では、老後の投資はまったくNGかというと、そうではありません。
退職金から医療費や介護費などの不測の事態に対応するお金を確保し、それでもなお余裕があるならば、退職金の一部を投資にまわすのは大いに賛成です。
ただ、誤解してほしくないのは、定年後の投資の目的は「儲けるためではない」ということです。
投資をする目的は、大きく分けて2つあると思います。
ひとつは、積極的にリスクをとってたくさん儲けるという目的。これは、投資をする人のほとんどが目指すところだと思います。
もうひとつは、「購買力を維持する」という目的です。これは、お金の価値を減らさないための投資です。定年後には、この2つめの投資目的がとても重要な意味を持ちます。
たとえば、退職金1,000万円を定期預金で持っていたとしても、10年後、その1,000万円に今と同じ価値があるとはかぎりません。将来物価が上昇していけば、金額は変わらずともお金の価値が目減りします。