大家愕然。店舗を貸していた“家族経営のラーメン屋”→従業員が全員知らない人に…「賃貸契約の解除」は可能か【弁護士が解説】

大家愕然。店舗を貸していた“家族経営のラーメン屋”→従業員が全員知らない人に…「賃貸契約の解除」は可能か【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

家族でラーメン・中華料理店を営む同族会社にビルの店舗を貸してた大家。数年後、貸していた会社の全株式が大手飲食チェーンを営む株式会社に譲渡されており、代表者や店長・従業員がすべて変わっていることに気がつきました。この場合、大家は「賃借権の無断譲渡」を理由に契約解除することができるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、過去の判例をもとに解説します。

このケースを裁判で争う場合、契約解除は可能か

もっとも、本件では、契約書において「「賃借人の株式譲渡、役員変更等の重大な変更により、賃借人が契約当時と実質的に企業の同一性を欠くに至った場合、これを賃借権の譲渡とみなし、事前の承諾を要する」と規定されています。実務上も賃貸借契約においてはこのような条項が設定されることは多いです。

 

そうだとすると、株式の譲渡等により、企業の同一性が変わったにも拘わらず、賃貸人に承諾を求めなかったことは形式的には契約違反に該当するようにも思われます。

 

しかし、賃貸借契約の解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されますので、形式的に契約違反に該当したからといって解除が認められるわけではなく、契約違反が当事者間の信頼関係を失わせる程度のものかどうか、という点でさらに検討を要することとなります。

 

したがって、この場合も「賃借人たる法人の株主構成等の変化が、賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊するような状態を作出しているかどうか」という点で解除の可否が判断されます。

 

賃借人の資本構成や役員変更が生じた場合、主に

 

・賃料の支払状況が変わったかどうか

・賃借目的物の使用状態が大きく変わったかどうか

・その他、契約締結が個人的な信用関係等に強く結びついていたか否か

 

などといった点から、信頼関係の破壊の有無が考慮されることとなります。

 

そして、この東京地裁の事例では、上記の要素を踏まえ、従前と状況が大きく変わっていないことを理由に賃貸人からの解除は否定されました。判例の要旨は以下の通りです。

 

「建物賃貸借関係においては、賃料の支払いの下に建物の使用を認めるものであるから、賃料の支払いの確実性と建物使用の態様が重視されるべき要素となる」

 

「本件においては、賃料の支払状況に変動はなく、将来の賃料支払の確実性についても、前述のように新たな賃借人の株主が東証一部上場企業であることに照らせば、確実性が高まりこそすれ、低くなることは考え難い」

 

「建物使用の態様についても、従前と同一の店名でラーメン・中華料理店を営業しているものと認められ、店長をはじめ従業員の大部分において交代が生じたとしても、もともと営業を目的として法人に店舗の賃貸をしている以上、従業員の交代等は借主の都合により当然に許容されるべきものであり、これをもって建物使用の態様に変更が生じたものと認めることもできず、他に使用形態自体に変更があることを認めるに足りる証拠はない」

 

「経営実権に変動が生じた借主が本件建物を賃借することになったとしても、それは、賃借人の法人組織全体がM&Aを受けたことにより、結果的に生じたものにすぎない」

 

この記事は、2020年5月9日時点の情報に基づいて書かれています(2023年2月21日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

大江・田中・大宅法律事務所
 

※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを、北村氏が再監修のうえGGO編集部で再編集したものです。

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