生命の危機を感じ…法律相談へ
しかし、そのような逃げ場すらL子さんから奪ったのが、新型コロナウイルスの流行によるステイホーム期間です。
夫は終日在宅勤務になり、朝から晩まで夫の監視下にある生活が始まりました。夫は本格的にエアコンの使用を禁止。どんなに暑くても「汗をかくのは代謝を高めるのでいいことだ!」と言って聞かず、暑さで子どもの意識が朦朧としてきた時も、水分補給と扇風機と「自然の風」で乗り切ろうとしたと言います。
「このままだと子どもが熱中症で死ぬかもしれない」とさすがに生命の危機を感じたL子さんは、一念発起して法律相談にやってきたのでした。
「とにかく、暑くて死にそうなんです」……これが、L子さんが真っ先に口にした言葉です。法律相談なのに体調不良を訴えるL子さんに、経緯を聞きました。L子さんの話によると、夫は何かにつけて「地球の環境が」「エコが」と言うけれど、いつも抽象的な話ばかり。
L子さんが具体的なことを聞いても「だからお前はバカなんだ!」と怒鳴るだけで、ちっとも答えてはくれないそうです。
さらに、この夫はゴミの分別には一切興味がなく、食べものも平気で残します。このことから、夫はただ知的ぶりたいだけで、真剣に環境のことを考えているわけではなさそうでした。
実はこの時期、L子さんのようにエアコンの使用をめぐって夫婦関係が悪化したという相談をたくさん受けました。
コロナ禍の在宅勤務で、退職後の夫婦に起きる問題が前倒しで起きることは予想していました。しかし、エアコンの問題として離婚相談が増えるとは思ってもみませんでした。
モラハラ夫を黙らせた“決定的証拠”
さて、夫のエセSDGsに気づいたL子さんは離婚を決意しました。離婚をゴールに据えてまず着手したのは、証拠集めです。夫が環境問題にうるさい、エアコンを使用させてくれないと言っても、なかなかその壮絶さは他人に伝わりません。夫のモラハラ行為そのものの録画を撮ることにしました。
汗だくになって「ママ〜、暑いよ〜暑いよ〜」と訴える子どもに、「エアコンをつけたら地球が壊れるぞ!」とこれまた汗だくになって怒鳴り散らす夫の姿。
幸い夫は毎日家にいるので、このような証拠を集めることにさほど苦労はしませんでした。
証拠を押さえて家を出たL子さんは、離婚調停を申し立てました。夫は「両親が揃っていないと子どもの発育に悪影響がある」と、子どもの命を危険にさらしたことは棚に上げて、建前論を展開しました。そんな夫を黙らせたのが数々の証拠の動画でした。
泣き叫ぶ子どもの姿は誰の目にもインパクトがあり、夫もそれ以上強く出てくることはありませんでした。当然ながら親権はL子さんに渡り、無事に離婚ができたのです。
この事例において、エアコンをめぐる話はとても印象深いエピソードです。しかし、調停や裁判で戦う際にそういった話題だけにフォーカスしてしまうのは失敗を招きかねません。なぜなら、「エアコンを禁じる」「地球環境にうるさい」というのは離婚の決め手に欠くからです。
論より証拠、子どもにひどい言葉を浴びせ続ける夫の姿、場面そのものを押さえたほうが、夫婦関係の破綻を裏付けるためには有効打と言えます。
この夫も、悪人ではないのかもしれません。とにかく光熱費を安く抑えるのに必死で、四角四面なほどにまじめ。ただ、地球環境を守ろうとした結果、家庭環境が壊れてしまっては本末転倒、という事例でした。
勝つためには夫のエピソードより子どもに怒鳴り散らす姿の動画