景気後退を予見する指標
景気後退を予見する精度が高い指標はさまざまあります。それらの現在の水準は、
◆過去には、景気後退のなかでのみみられたような水準
です。
いまはまだ「景気後退」ではない
ただし、「いまが景気後退か」といえば、筆者は「そうではない」と考えています。米国の景気後退を判定するのは、全米経済研究所(NBER)です。
全米経済研究所(NBER)のウェブサイトによれば、景気後退を判定する際には、幅広い指標を見るとしているものの、次の7つの指標を挙げています。
・雇用統計(事業所調査)
・雇用統計(家計調査)
・実質個人消費支出
・実質小売売上高
・実質卸売売上高
・鉱工業生産指数
7つすべてを1つの図に示すと、次のとおりです。
細かく見ると、【濃い青】の「鉱工業生産指数」が先行しているようにみえます。しかし、2015年のように、同指数がマイナスになっても景気後退にいかなかったこともあります。それ以外の指標を見ればおわかりのとおり、家計全般への影響が限定的であったためでしょう。
直近部分を拡大してみます。そうすると、「生産」や「雇用」、「所得」などは、伸びが鈍化しているものの、まだ比較的高い水準です。したがって、まだ景気後退には入っていないように思えます。
いずれにせよ、わかりにくい図です。
そこで、【上の図】をシンプルにするために議論をシンプルにすると、全米経済研究所(NBER)は、これら7つのうち、「実質個人所得(移転収入を除く)」と「雇用統計(事業所調査)」にもっとも大きなウェイトを置いているとしています。
これら2つだけを図にすると、次のとおりです。
どちらが先行するかは図からは必ずしも判然としません。
しかし、「所得=①賃金×②雇用者数」であり、①「賃金」には下方硬直性があるほか、②とくに米国の場合はまずは「雇用」で調整するため、「雇用」が考えやすいでしょう。
考えるべきは、「雇用の伸びがどのくらいまで鈍化したら、もう回復する力がなくなって、景気後退に至っているか」です。
[図表4]に【青い帯】で示すとおり、雇用者数の伸びは、米国の人口動態に合わせ、だんだんと鈍化してきています。
人口や雇用者数の伸びが鈍化した1980年代以降を見ると、前年比で「+1.5%」を割り込むと「もう戻れなくなり」(point of no return)、景気後退に向かっています(→【図中の赤線】を参照)。