(※写真はイメージです/PIXTA)

様々な要因によって世界的なインフレが起こり、将来の展望が正確に描けない昨今。自身の資産を守り、未来につなげていくためには、どのような行動を取ればいいのでしょうか。複眼経済塾の取締役・塾頭、エミン・ユルマズ氏が、著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から、世界経済の展望と、日本経済に潜むチャンスについて解説します。

岸田政権が掲げる「貯蓄から投資へ」を自ら遠ざけるように見える政策の数々

岸田首相は日本の借金の膨大さを憂い、財政規律を重視している可能性が高い、というのが私の岸田分析だ。菅前首相がアベノミクスを踏襲したのに対し、岸田首相はかなり違う路線を歩むのではないかと思う。

 

貯蓄から投資へという投資誘導路線を重要視していると言いながら、株取引で得たキャピタルゲインや配当収入に対して課せられる税金の税率を、現在の税率一律20%から25%に上げようとしている。まことに矛盾が多いのだ。

 

米国にも似たような流れがあるにはある。だが米国の場合、そもそも論として、米国では、総額としては株を一部の人たちが独占的に握っているとしても、株を持っている人の数がかなり多い。

 

しかし、日本の場合はそうではない。25%の金融所得増税を実施してしまうと、株を買って運用する人のシェアが増えないのは目に見えている。さらに言えば、日本人の投資が日本株に向かわなくなってしまう。個人資産2,000兆円のうちわずか11%しか株に回っていないのは、常々、私が言及していることであるが、あまりにも少ないと言える。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
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1980年代後半のバブル全盛時には日本人の個人資産のうち株式での運用が30%を超えていたのを考えると、いまは3分の1に縮んでしまったことになる。50%超の米国には届かないにしても、いまの3倍程度には増やしたいものである。そうすれば本当の意味で「貯蓄から投資へ」の世界が実現されるだろうし、日本の株式市場にもお金が回ってきて、活性化されよう。ただし、いまのままでは厳しいだろう。

「金持ちいじめ」をしても日本が豊かにならないワケ

「成長と分配の好循環の実現を目指す新しい資本主義」これが岸田首相が掲げるスローガンなのだが、市場はこういうわかりにくいメッセージを嫌がる。新しい資本主義などと言われると、市場には何か中国式資本主義のように聞こえるからだ。もしくは金持ちを締め付ける資本主義とも聞こえかねない。いままでより格差是正、分配優先、社会福祉に中心を置く資本主義ではないかとの憶測が飛んだ。

 

これらはイコール金持ちいじめにつながるわけだから。子育て世帯への給付金の話に戻すと、960万円という年収の壁を設けようとしたのだが、この960万円の設定はどういう発想から出てきたのだろうか? おそらく公務員や役人の一番多い年収層がもっとも優遇される設定で線引きしたのだろう。それをちょっとでも超えると、税率がぐんと変わるのが、日本の特徴だからである。

 

子育て世帯への給付金について親の収入で線引きするのは、基本的にナンセンスだと私は思う。たとえば親の年収が1,000万円でも、子どもが3人いるのと、1人いるのとでは違う。1,000万円の年収の人に子どもが3人いて、700万円の年収の人に子どもが1人いたとすると、どちらが豊かなのか? したがって、そういう線引きをつくろうとすること自体がおかしいわけである。

 

お金を配るのであれば全員に配ればよい。それは必ず世の中の景気にはプラスとなること請け合いだから、それには賛成の立場である。私見に過ぎないが、岸田政権の路線については、ちょっと行きすぎている気がする。確かに米国の政治は、いま明らかに格差拡大を是正し金持ち優遇を見直そうとする左派に向いている。けれども、日本はまだ米国やヨーロッパと同じ問題を抱えているわけではない。

 

日本の場合はとんでもない金持ちが多くいるわけではないし、株で儲かっている資産長者がさほど出ているわけでもない。岸田政権が欧米や中国に政策を合わせようとしているのは、あまり意味を見出せないように思う。日本はこれらの国とまったく違う性質でまったく違う問題を抱えているのだ。投資家への増税より投資家を増やすことにこそ重点を置くべきである。

 

エミン・ユルマズ

複眼経済塾取締役・塾頭

著者画像撮影 Rikimaru Hotta

本連載は、エミン・ユルマズ氏の著書『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)から一部を抜粋し、再構成したものです。

エブリシング・バブルの崩壊

エブリシング・バブルの崩壊

エミン・ユルマズ

集英社

不安定な社会情勢のなかで、日本の投資家はどのように資産防衛・運用を行えばよいのでしょうか。今後の世界経済に大きな影響を与えるであろう「エブリシング・バブル」と呼ばれる米国発のバブルと、その周辺事情について解説。

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