バブルのトラウマを抱えている日本人
設備投資をしたり、その国の未来に投資するのが本来の投資手法なのだが、いずれ過剰投資が起きて、投機熱に浮かされるようになる。そして、その逆は先進国の上場会社が設備投資をせずに、自社株買いで自社の株価を吊り上げることに血道を上げていることだ。
設備投資をしないことは、最終的にはインフレを生まないし、高成長も生まない。だから世の中で、特に先進国は低成長に陥っている。これをジャパニフィケーションと呼んでいる。
日本で最初に起きたことだからである。日本がバブルのときは現金の価値が低く、不動産や株式などのリスク資産の価値が高かった。バブル崩壊後に日本で何が起きたかというと、日本の会社、特に銀行セクターは大量の不良債権を抱えていたが、それを国が救済した。もう一つは、膨大な人たちが不動産や投資で大損をしたので、現金の価値が高まった。
現在はもうその必要性はないのだが、心理的な状況はいまでも続いていて、日本人は現金をすごく大事にする。それはバブルのトラウマを抱えているからだ。だから、日本は長らくデフレから抜け出せなかった。
結局、現金のニーズが高まっても、日本人はバブル前よりもお金を借りなくなってしまった。銀行に借りに行かない。銀行から遠のいてしまった。そうなると、デフレ脱却は無理なのだ。お金は中央銀行がつくっているのでなく、信用創造でつくられるわけだから、誰かが銀行で積極的に借金をしない限り、社会に出回るお金は増えない。
したがって、他国に資金を貸し出すキャリー体制とは、本質的にはインフレになりにくい、デフレ的な環境といえる。だが低成長、低金利のジャパニフィケーションを生み出したとはいえ、日本の場合は優秀だった。なぜならば、日本は経常黒字をずっと出していて、さらに日本は世界最大の債権国で海外に資産をふんだんに持っているからだ。
だから日本円はずっと評価され続け、日本の豊かさが大きく失われることはなかった。他の国ではこれがそのまま起きるとは思えない。ジャパニフィケーションとは言っているが、米国においては、日本と同じことが起きるとはとても思えない。
エミン・ユルマズ
複眼経済塾取締役・塾頭
著者画像撮影 Rikimaru Hotta