(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の公的年金制度には、夫に先立たれた妻の生活を守るため「遺族年金」が整備されている。だがその実態は、「サラリーマン妻」と「自営業の妻」では待遇の手厚さに大きな違いがある。夫婦で額に汗して働いてきた夫婦のケースをシミュレーションすると、驚愕の結果が見えてきた。

夫と二人三脚で弁当店を営んできた、子のない50歳女性

近年、多くの人が不安を抱いている老後資金の問題。会社員や公務員であれば、国民年金プラス厚生年金があるが、自営業者の場合は定年がない代わり、公的年金は国民年金のみという状況だ。

 

多くの自営業者、フリーランスは、定年なく長く働けることを前提に人生設計を描いているが、時には想定外の不幸が襲うことがある。

 

「夫婦2人でテイクアウト専用の弁当店を営んでいました。一時はコロナで大変でしたが、なんとか乗り切って、よかったね、と喜んでいた矢先に、夫が突然亡くなってしまいまして…。脳梗塞でした。私だけでは店が切り回せないため、畳むことになりそうです。子どもも両親もなく、これからどうしたらいいのか…」


自営業夫婦の場合、夫に先立たれてしまうと、仕事の継続が難しくなり、収入が絶たれてしまうだけでなく、世帯で受取れる老後の年金が減るという、2つの問題に直面する。

 

公的年金の制度には、老後に受け取れる「老齢年金」のほか、一家の生計を支える黒柱が亡くなった場合に家族が受取る「遺族年金」の制度がある。

 

だが、国民年金のみに加入している自営業世帯にとって、「遺族年金」の受給要件はなかなか厳しい。

遺族年金は「誰が」「いくら」受取れるのか?

「遺族年金」の制度とはどのようになっているのか。

 

「遺族年金」には、「遺族基礎年金」(国民年金加入者)と、「遺族厚生年金」(厚生年金加入者)の2種類がある。亡くなった人が、自営業者等の場合(第1号被保険者)は、「遺族基礎年金」のみを受給することになり、会社員や公務員等の場合(第2号被保険者)は、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」を受取れる。

 

ところで、遺族年金は「誰が」「いくら」受取れるものなのか。

 

[図表]遺族年金受取額早見表  ※子の加算:1人目・2人目=各224,700円、3人目以降=各74,900円
[図表]遺族年金受取額早見表
※子の加算:1人目・2人目=各22万4,700円、3人目以降=各7万4,900円


図表を見れば明確だが、「遺族基礎年金」は、子どもがいないと支給されない。つまり、事例の50歳女性は、夫亡きあとの「遺族年金」を受け取れないのだ。

自営業・子どもなし・50歳…老後資金の不足金額に愕然

夫婦二人三脚で行っている自営業の場合、夫亡きあと、妻1人で経営が立ち行かなくなるケースはよくある。その状況で遺族年金も受取れないとなれば、残された妻はどうやって生きていけばいいのか。

 

当然、十分な預貯金や生命保険があれば問題はない。ならば「心配ない」といえる金額とは、具体的にいくらなのか。

 

総務省が実施している2021年の家計調査では、単身世帯女性の年間の平均支出金額は180万4,284円、月にするとおよそ15万円だ。そして、令和3年簡易生命表(女)だと、50歳女性の平均余命は約89歳。

 

1,804,284円 ×(89歳-50歳)= 70,367,076円


つまり、上記の計算結果から、およそ約7,000万円の生活費が必要だとわかる。

 

国民年金は65歳から受取れるので、仮に妻が国民年金を満額受取れるとして計算してみよう。


約780,000円 × 24年 = 18,720,000円


受給できる国民年金はおよそ約1,900万円となる。


それに加え「亡くなった夫が国民年金の保険料を10年以上支払っている」「夫との婚姻期間が10年以上」等、いくつかの条件を満たした場合、妻は60歳から65歳まで、「寡婦年金」受取れる。この例の場合「寡婦年金」を約45万円程度受取れるとすると、


45万円 × 5年 = 2,250,000円


となり、その金額はおよそ225万円だ。


これらを総合して、事例の女性の残りの人生において、不足する金額を算出する。


約7,000万円 - 約1,900万円 - 約225万円 = 約4,900万円


今後の年金収入のみでは、5,000万円近い生活費が不足することがわかる。

 

注意しなければならないのは、この金額は、妻が国民年金を満額受給できると仮定したものであり、これから支払う社会保険料等は含まれていないという点だ。当然、万一の病気や要介護といったリスクも考慮していない。

 

この女性の人生に、突然の持ち出しが必要になる「不測の事態」が一切起こらなかったと仮定したうえで、不足金額が約5,000万円なのである。少し考えれば、実際の不足金額は、はさらに膨らむと想像できるだろう。

唯一の選択肢は「死ぬまで働く」なのか?

もし預貯金や死亡保険金がない場合、この金額を前にどうすればいいのだろうか?

 

対処するには、今後も働き、生活するに足る収入を得続けるか、もしくは、収入が足りなければ、マイナスにならないよう、就労しながら支出を切り詰めるしかない。


だがこのご時世、毎月15万円の生活費ではすでにギリギリといわざるを得ず、切り詰めるにしても限界がある。だが、ながらく自営業だった50歳の女性が、いきなり就職して十分な生活費に足りる給料を得るのは、そう簡単ではない。

 

子どものいない自営業世帯が置かれる、シビアな現実。これを見ると、厚生年金加入者の「遺族厚生年金」の手厚さが際立って見える。

 

夫とともに額に汗して働いてきた自営業の妻と、家庭内で夫を支えるサラリーマンの妻との、あまりに大きな差。自分で選んだ道とはいえ、相当厳しい状況ではないか。夫を亡くした自営業の妻は、自身の最低限の生活を維持するために、年金を受給してもなお、いつ終わるとも知れない労働に従事することになるのかもしれない。

 

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※本記事のインタビューではプライバシーを考慮し、一部内容を変更しています。

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