懐疑のなかでも「強気相場」が育っている可能性
しかし「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、幸福感とともに消えていく」という有名なジョン・テンプルトンの格言にあるように、悲観論と警戒論の蔓延は、大相場の波が始まる前に必ず起きることでもある。
強力な金融引き締め下での潤沢な投資資金は何故なのか
懐疑論が見過ごしている要素があるとすれば、それはどのようなものだろうか。
第1にグローバルに潤沢な投資資金、流動性の存在がある。米国での1年間で8回、累計4.25%の利上げにもかかわらず、これほどの潤沢な投資資金が健在であることは多くの人々にとってまったくの想定外であった。
余剰資金は新興国株式や米国の低格付けクレジット市場に流れリスクプレミアムは低下し始めている。なにより4.5%まで短期金利が引き上げられたのに、米国10年債利回りは3.5%前後まで低下している。
これはCPIや名目経済成長率の半分であり、テーラールールに基づけば依然として緩和的水準にあるといもえる。金融引き締めの効果を金余りがしり抜けにさせているともいえるのだ。
まさにグリーンスパン元FRB議長が謎(conundrum)といった事態が再現されているかのようである。
この長期金利の低下を先行きの景気不安の予兆とする見方もあるが、そうであればよりリスクの高い新興国株式やジャンク債の値上がり、さらには米国銀行貸し出し増加や、世界景気との連動性が高い銅市況の上昇などをどう考えたらよいのだろうか。
イノベーションと企業部門の資本生産性の向上
1980年以降、長期金利の低下が景気悪化の前兆ではなかったように、今の長期金利の低下も別の要因によるものである可能性が考えられる。
それはなにかといえば、企業部門の生み出す価値が、企業部門が必要とする投資より大きく「恒常的資金余剰」が起こっていると考えられるのではないか。
その背景には資本生産性の恒常的上昇がある。設備、機械、知的資産などの価格が大きく低下し、設備などの再取得価格が低下し、必要な投資額が減少するということが起きている。
またGAFAMではリストラが進行しているが、そこではAI、ロボットによる労働力代替が起きており、大きな生産性上昇ゲインが、企業部門の金余りを引き起こしている可能性がある。
図表6、7に見る米国企業の大幅なフリーキャッシュフローの存在は、企業部門に潤沢な資金余剰が存在していることを示している。