弾力性やしなやかさに富んだ「背骨」
姿勢を整えるために、もっとも重要なパーツとして「背骨」があります。からだの中でもっとも大事な「軸」ともいえます。背骨をよりよく整えれば、姿勢はみるみる正しくなっていきます。
反対に、背骨が不適切な状態のままでいると、姿勢のよし悪しの問題どころか、心身への悪影響が懸念されます。まずは、背骨の構造について正しい理解が必要です。
背骨というのは、実は複雑な構造になっています。7つの「頸椎」、12の「胸椎」、5つの「腰椎」、「仙骨」「尾骨」から成り立っています。全体的に見ると、背骨には小さなカーブが3つもあります(「頸椎の前弯」「胸椎の後弯」「腰椎の前弯」の3つです)。
このような構造になっているからこそ、背骨は弾力性やしなやかさに富んでおり、からだにかかる重力や負荷をうまく逃がすことができるのです。カパンディー『関節の生理学』によると、次のような事実が明らかになっています。
たとえば、背骨にカーブなどがなく、まっすぐな棒状の形をしていたとします。その場合の重力への抵抗力を「1」と仮定してみます。次に、背骨にカーブがひとつあったとします。その場合の重力への抵抗力は「2」となります。さらに、背骨にカーブが2つあったとします。その場合の重力への抵抗力は「5」となります。そして、背骨にカーブが3つあったとします。その場合の重力への抵抗力は「10」にまで増えるのだそうです。
わかりやすくいうと、まっすぐな背骨ではなく、カーブの数が多い背骨のほうが、重力への抵抗力が大きくなるというわけです。これは、人体がいかに素晴らしくできているかを教えてくれるエピソードではないでしょうか。人間の背骨にはカーブがあるからこそ、うまく直立姿勢が保てているのです。
「猫背」がおよぼす体への悪影響とは?
しかしながら、姿勢が悪くなると、せっかくの背骨のカーブにも悪影響が出ます。近年多いのは、背骨のカーブが大きくなりすぎているというケースです。自分自身では気づくことがなかなか難しいものですが、「カーブが大きくなりすぎる」ということは、せっかくの背中のS字型の曲線がつぶれているということです。
背骨からは弾力性が失われ、からだを支えることもままならなくなり、全身に負荷がかかることになります。たとえば、胸椎のカーブが大きくなると「猫背」になります。多くの人がご存じのように、猫背になると呼吸は浅くなり、血流は滞るなど、さまざまな障害が引き起こされます。
一方、腰椎のカーブが大きくなると「反り腰」になります。反り腰になると、腰回りの筋肉が緊張を強いられることになります。もし、自分の背骨のカーブが適正かどうか迷ったら、壁を背にして立ち、「かかとの後ろ」「お尻のトップ」「胸椎のトップ」「後頭部」、これらの4点が1本の線の上にくるように意識をしてみてください。
4点が1本の線上にあるのが、正しい背骨の状態といえます。もし、どこか1点でも「同時に壁につけられない」という人は、背中のカーブのいずれかの大きさが、適正でない(たわんだ状態)であるということになります。
よくあるのは、「壁にかかとをつけて、お尻と胸椎のトップを壁につけると、後頭部がなかなか壁に密着しない」というケースです。
「たかが背骨のカーブ」などと軽く見てしまうこともあるかもしれません。けれども背骨のカーブが大きくなると、背骨の可動域は広くなり、安定感を失いやすくなり、からだ全体の軸としてうまく機能できなくなってしまいます。