証明できない場合やお金の色が薄まった場合は?
特有財産である場合、その財産は財産分与の対象とはなりません。
特有財産であること、即ち、預貯金の金額が独身時代に蓄えたものであることや相続した金員であることは、Kさんが証明する必要があります。
父の遺産は?
昨年お亡くなりになったお父様の遺産については、比較的証明が容易だと思われます。遺産分割協議書を締結していれば、遺産分割協議書に受領した金員が記載されていると思われますので、遺産分割協議書が特有財産であることの証明のための証拠となります。
遺産分割教書を締結していない場合でも、お父様の預貯金からKさんの受領までのお金の流れがわかるお父様・お母様の通帳なども特有財産であることの証明のための証拠となります。
夫の独身時代の蓄えは?
次に、独身時代に蓄えたものについては、不明であるとのことですので通帳を破棄等して証明が困難な状況になっているのだろうと思います。金融機関は、取引履歴の記録を7年間は保存する義務がありますが、金融機関によっては、7年以上保存しているところもありますので、一度、金融機関に問い合わせてみてもよいかと思います。
婚姻の際の残高の記録を取得できれば特有財産であることを証明するための証拠となります。金融機関の記録が取れない場合も、当時の生活状況から推測したり、奥様の認識をそれとなく聴取して記録化したりするなどの対応が考えられます。
もっとも、独身時代の預貯金の残高などを証明できたとしても別の例外が問題となることがあります。
独身時代の預貯金の口座をそのまま婚姻期間中の家計管理に使ったような場合、支出が、独身時代の預貯金由来か、婚姻期間中の収入由来か区別することは困難です。このような場合、渾然一体となっているとして、特有財産であることを否定する裁判例があります。
もちろん、婚姻期間中の期間が極めて短い、独身時代の預貯金の額と比して婚姻期間中の収入が極めて少ないような場合には、区別することも可能かもしれません。
しかし、Kさんの場合は、独身時代の預貯金が蓄えられた口座は、20年間という婚姻期間を通じて婚姻関係の家計に利用されていたので、独身時代の預貯金としてのお金の色はだいぶ薄まっていると思われます。裁判例でいうところの渾然一体となっているといえます。
そのため、このことを奥様が争った場合には、独身時代の預貯金は特有財産と判断されない可能性が予想されます。