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市場が6分の1に縮んでも……
マスターがいることで、お客さんはそれまで知らなかった世界を知り、それを楽しむようになり、「価値のわかる客」に育つ。するとおのずと、より高いものが売れるようになる。その典型的な例をお伝えしよう。会津若松の呉服店「庵 はづき」という店だ。
呉服市場は、1980年代の1兆8,000億円をピークに今や2,700億円ほどと、およそ6分の1にまで縮んだ。長年言われてきた「着物離れ」に加え、最近ではコロナ禍によって、成人式などただでさえ少なくなっていた呉服が売れる機会が減り、さらに苦境にある。
そんな中、同店は、平成13年に吉川恵美子氏が自らの呉服好きが高じて開業して以来、順調に売上を伸ばしてきた。
しかし同店に、たまたま着物好きや、暇とお金を持て余した方たちが集まっているのではない。それまで着物をまったく着ていなかった人や普通のOLも多い。吉川氏によると、お客さまからよく、「あなたに出会わなかったら、着物にこんなにのめり込むことはなかったわね」と、感謝交じりに言われるのだそうだ。
つまり彼女はマスターなのである。
そんな彼女は、「着物の楽しさを教えていくと、お客さんはどんどんのめり込み、目が肥えていきますね」と言う。とにかく良いものを見てもらうことが大事、と彼女は言うが、そこでは買うかどうかは二の次。「顧客を育てる」ことが重要なのだ。
その結果、より良いもの=高いものが売れていく店となる。
そんな同店を、着物作家や良い品を多く持つ有力問屋は強く支持し、それによりまた良い品が集まるようになる。そして顧客らはそれらを見て、時に作家から直接話を聞き、また目が肥えていく。
近年、同店では呉服だけでなく、お教室にも力を入れている。着付け教室はもちろん、茶道教室、香道教室、ピラティスの教室までと幅広い。
それも、「お客さんが、呉服とともにより美しく楽しく生きるために、必要なことを教えられるように」とのことだ。
どんどんと縮小している市場でも、人口が減っていく町でも、伸びていく店がある。
そこには「マスター」がいる。
そして、価値を運び、対価を得ながら、価値のわかる顧客を育てているのである。
小阪 裕司
オラクルひと・しくみ研究所
代表
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