「業務スーパー」が「食品ロス1%」「原価率50%」を実現できた理由とは

「業務スーパー」が「食品ロス1%」「原価率50%」を実現できた理由とは
(※写真はイメージです/PIXTA)

「業務スーパー」は、どこも真似できない商品のラインナップと驚くほどの低価格で注目を浴びており、物価高が深刻化するなか、小売業界における存在感をますます大きくしてきています。いったいどのような経営が行われているのでしょうか? 本連載では小売り・流通関係に精通しているジャーナリストの加藤鉱氏が、著書『非常識経営 業務スーパー大躍進のヒミツ』から、業務スーパーの型破りな経営戦略について解説します。

ロス率軽減とパーツアッセンブル方式

小売業の深奥を巡る取材なら人後に落ちないと自負する私だが、神戸物産創業者の沼田昭二ほど食品ロス率にこだわる経営者を知らない。

 

それはおそらく創業者の沼田昭二の人生に由来する。

 

1954年兵庫県加古(かこ)郡稲美(いなみ)町生まれ。兵庫県立高砂高校を卒業後、神戸三越に入社、神戸支店で実用呉服を担当した。流通の世界を知るためであった。彼は高校時代から自分は事業家になると決めていた。当時はダイエーの黄金期で、スーパー業界に猛烈に興味を抱いた。のちに沼田は穏やかな語り口でこう振り返っている。

 

「学歴で会社の順位が決まるような時代だったので、事業を起こそうと考えていました。自分の人生を試すためには起業するしかなかった」

 

1年7ヵ月働いた三越を辞め、地元で野菜や果物の行商人になったとき、食品スーパーをやろうと思った。そのためには自身が食品のプロになり、自分で何もかもできないと駄目だと、加古川市の元料亭の「入船」に勤めた。入船の会長に頼み込み、工場給食と会席料理の店で、包丁の腕を磨いた。

 

料理人時代から常に意識していたのは“時短”であった。調理の手間が省ける商品はプロにも一般家庭にも喜ばれる。どうしたらいいのか。そこで思いついたのが半加工品の食材パーツを合わせて料理をつくる「パーツアッセンブル方式」である。

 

「工業の世界では部品を組み合わせて完成品が出来上がる。食材を組み合わせて一つの料理ができるなら、食品ロス率の軽減にもつながる。もちろん時短も実現できる」

 

先に創業者の人となりを、神戸物産の中堅社員が「物事を分子レベルに細かに分解する。なぜこれがこうなるのか。こうだからこうなるのだ。分解したパーツを自分なりに組み上げ直し、結論を導き出す」と評したことを紹介した。ここでも彼ならではの発想が湧いた。

 

街の人気店の看板メニューをすべて"分解"して吟味し、調理に時間がかかるものを商品化したのだ。

 

たとえばタマネギに関してはみじん切りにしたものもあれば、スライスにしたものも、ソテーにしたものも商品化した。ジャガイモならば、皮をむいて乱切りにしたものが冷凍して売られている。一度試してみてその便利さを実感すると、次から外せなくなる。たとえば、ボイルドポテトがあれば、ポテトサラダやコロッケがすぐにできる。

 

味付けはなるべく薄味にして、最終工程は料理をする人に"任せる"という塩梅。これらはもともと業者向けを意識したものだったが、一般の消費者にも受けた。

 

次ページ創業者の料理人という視点から生まれた商品への工夫
非常識経営 業務スーパー大躍進のヒミツ

非常識経営 業務スーパー大躍進のヒミツ

加藤 鉱

ビジネス社

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