今回は、リフォーム等の契約者が認知症であった場合、有効かどうか、実例を挙げて見ていきます。※本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、成年後見制度等にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

3年間に5000万円以上のリフォーム工事が・・・

≪トラブルの事案≫

埼玉県富士見市に住むA子さん(80歳)とB子さん(78歳)の姉妹は、築約30年の木造2階建て住宅で暮らしていました。ところが、近所にA子さんとB子さん姉妹の家が売りに出されている購入案内のチラシが配られ、近所の人は不審がっていたのです。近所の人がそれとなくA子さんに聞いてみたところ、知らない女の人がやってきて「この家は私のものになるから出て行ってほしい」と言われたと話しており、それ以上聞いても、どういうことか要領を得ませんでした。

 

そこで近所の人が富士見市に通報して調べてもらったところ、A子さんらの家が競売にかけられていることが分かりました。市の調査が進んで明らかになったところでは、A子さんらの家はここ3年間に5000万円以上のリフォーム工事が繰り返され、代金が支払われないことから信販会社に自宅の競売申立てをされたことが分かってきました。

 

調査した建築士の話では、「普通は3つあれば十分な床下の換気扇が20~30個付けられていた。不必要な工事がほとんどで市場価格の10倍以上の値段で行われており悪質だ」とのことで、業者の中にはわずか11日間で5回、計673万円の「シロアリ駆除」や「床下調湿」などの契約を結んだ会社もあったということでした。そして、工事請負に名を連ねた業者は少なくとも16社もあるようでした。

 

医師が2人を診断したところ、A子さんとB子さんは認知症が進んでいるようで、内容もよくわからないまま業者に勧められて次々と契約させられていたようでした。

成年後見人がいれば、未然に防げたトラブル

≪トラブル診断≫

これは10年ほど前に埼玉県富士見市で実際にあった話です。この事例にとどまらず、高齢者の判断能力の低下につけ込んだ悪質な訪問販売、電話勧誘販売、詐欺まがいの商法が後を絶ちません。一人暮らしのお年寄りの家を訪ねると、高額で真新しい布団などの商品が何セットも積まれているといった事案は誰でも一度は耳にしているのではないでしょうか。

 

すでに述べたとおり、全国の消費生活センターに寄せられた70歳以上の方の相談件数は、平成25年度は約20万8000件で全体の約22.3パーセントを占めています。これらの悪質商取引事案に対しては、消費者契約法の不実の告知、不利益事実の不告知などによる取消しやクーリングオフによる取消しを活用して被害者の救済を図れる場合もありますが、やはり身近に気軽に、また適切に相談に乗ってくれる人の存在が欠かせません。

 

その意味では、高齢者の方が認知症などにより判断能力が衰えたときに、成年後見人がその人の保護を図り、その人に代わって生活、療養看護及び財産管理に関する事務を行う成年後見制度を活用することが一番の方法だと考えられます。

 

このような成年後見人等が適切な時期に選任されていれば、悪質商取引の餌食になることを未然に阻止できたでしょうし、もし契約締結後であっても契約を取り消すことで本人を保護することができたのです。

 

富士見市の事案では、市の申立てで競売は中止され、遅ればせながら成年後見人も選任されて被害回復を図ったようです。その後、約6割の被害を取り戻したとの記事に接していますが、なかなか被害の全額回復は困難な状況らしいです。

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

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