ある日突然脳出血の後遺症で47歳の夫が失語症になったら、あなたはどうしますか──? 夫が失語症になったことをきっかけに、言語リハビリの専門家である言語聴覚士の資格を取得した米谷瑞恵氏が、発症から最初の2年半を夫婦がどう過ごしてきたのかをお話しします。本連載では、米谷瑞恵氏の著書『こう見えて失語症です』(主婦の友社刊)を一部抜粋してお届けします。
文字は読めないから、イラストで
入院中の入浴で、オットはよくボディソープとシャンプーを間違えた。容器が似てるから、というのもあるけれど、文字が読めないから、どっちがどっちなのか見分けがつかないという。そういうことか、うーん、読めないって不便だ。
ある日、病院に行くと、スタッフのかたが容器にイラストつきのシールを貼ってくださっていた。シャンプーには頭の絵、ボディソープにはお相撲さんの全身の絵。わあ、これなら読めなくてもわかります。やったー、ありがとうございます。お相撲さんの絵だから、よけいに嬉しいです。オットも私も相撲が好きで、病気になる前は国技館で開催される場所には必ず足を運んでいたので。
その少し前に、同じ病室に相撲好きなかたが入院してきた。夕方になるとテレビで相撲中継を見ながら、ほかの入院患者さんと相撲の話をしている。オットもその輪に加わりたいけど、言葉が出ないから聴いているだけ。でも、聴いているだけでも楽しいらしい。
スタッフのかたは、そんなオットの様子を見ていたのかもしれない。ボディソープのお相撲さんのイラストを見て、オットは「親切だねえ」とニコニコしている。よかったね。これでもうシャンプーと間違えないね。
言語聴覚士
慶應義塾大学卒業後、出版社に8年間勤務し、フリーライターに。1996年に結婚。2012年、オットが脳出血を発症し、後遺症で失語症になったのをきっかけに、自身のFacebookに「ウチの失語くん」を書き始める。失語くんと一緒に生活しているうちに、言語リハビリの専門家である言語聴覚士という仕事に興味をもち、49歳で言語聴覚士養成の専門学校に入学。2016年、国家試験に合格し、言語聴覚士資格を取得。現在は言語聴覚士としてリハビリ施設で働いている。電子書籍『ウチの失語くん』がある。メンバーの一人として神奈川県川崎市で「失語症と仕事を考える会 ステップ」を開催している。
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連載「失語症」とは?言語聴覚士である氏の「夫との実話」をもとに解説!