ひらがな表記の名前は苦手
オットはひらがなの読み書きがほとんどできなくなったが、漢字なら、ある程度は意味が理解できる。
友人に「失語症で文字が読めない」と知らせたところ、絵本なら大丈夫ではとお見舞いにくださるかたがいたが、ごめんなさい、絵本のほうが苦手なんです。ひらがなだけの絵本よりも、漢字の多い新聞のほうが「読める」んです。
失語症のかたの中には、オットとは逆に「漢字のほうが苦手」な人もいる。言語聴覚士になってから何人かお会いしたが、それでも割合で言うと「ひらがなのほうが苦手」な人が多数だ。
ですからね、政治家の皆さま。選挙に立候補するとき、名前をひらがな表記にすると、大半の失語症のかたには読めませんよ。オットが投票所のブースの中で所在なげにしていたのは、貼ってある候補者一覧がひらがなだらけだったからだ。
わかってます。「加藤俊樹」さんは間違って「加藤敏樹」と書かれると無効になるから、「加藤としき」と表記してるんですよね。わかってます。
でもそれで、失語症者の票をとり逃がす可能性があることを、どうぞ少しだけ気に留めていただけると幸いです。
数字も苦手になっていた
この頃になると、オットが最初に担ぎ込まれた病院で言われたことを、よく思い出すようになった。
脳出血発症直後の脳のCT画像を見て、医師はこう言ったのだ。
「言語をつかさどるところがやられているので、言葉に障害が残ります。特に数字を扱うところの損傷が激しいから、この部分は回復が難しいでしょう。経理などのお仕事でしたら、転職を考えたほうが……」
いえ、経理ではありませんし、とにかく命に別状がなくてよかったです。言葉の障害にはそのあとすぐに気づいたが、数字うんぬんはほとんど気にならなかった。入院中は数字で困ることがあまりなかったのだ。
そういえば、入院中の体のリハビリで、ストレッチを10回と指示されると、オットは「いーち、にい、さーん、ごー、なーな、はーち、いーち、あれ?」と数えて、「いつになっても終わらないよー!」と理学療法士に言われていた。