(※画像はイメージです/PIXTA)

ある日突然脳出血の後遺症で47歳の夫が失語症になったら、あなたはどうしますか? 夫が失語症になったことをきっかけに、言語リハビリの専門家である言語聴覚士の資格を取得した米谷瑞恵氏が、発症から最初の2年半を夫婦がどう過ごしてきたのかをお話しします。本連載では、米谷瑞恵氏の著書『こう見えて失語症です』(主婦の友社刊)を一部抜粋してお届けします。

失語症のオットとの二人暮らしが始まった

脳出血で救急搬送されてから約5ヵ月後、退院して家に戻った。後遺症で体に麻痺があると自宅の改修が必要になることもあるが、オットは麻痺がほとんど残らず、何もしないですんだ。家族としては、ありがたかった。

 

言葉も「宇宙語」が出なくなり、日本語っぽい単語が増えたので、何を言おうとしているか推測しやすくなった。これももちろん、ありがたかった。この頃の「標準失語症検査(SLTA)」の結果は、「聴く力」が短文で100%、「話す力」は単語で25%、「読む力」は短文で100%、「書く力」は単語で0%。最初に検査したときと比べると「書く力」以外は伸びている。

 

聴くのも読むのも「短文」で100%正解なんて、もう十分よくなったみたいだけれど、この検査での「短文」は4〜5語文のこと。「私は朝ごはんに目玉焼きを食べました」くらいの短い文だ。「私は朝ごはんに目玉焼きを食べて、コーヒーを飲んでから歯を磨きました」くらい長いと、長文になる。オットはまだ、すんなりとは理解できない。

 

だから当時は、普通のペースで話しかけると、「は? わからん」という顔をされることが多かった。

日本語が苦手な外国人のよう

失語症になると「言葉」を理解するのに、時間がかかることが多い。

 

オットの場合は、たとえば「目玉焼き」という言葉を聴いて、それが「め・だ・ま・や・き」という5つの音だと正確に把握するまでが大変だ。「め・ま・だ・や・き」と聞き間違えることもある。

 

次に頭の中で「め・だ・ま・や・き」って何だっけ? という検索が始まり、「食べ物」の仲間のようだぞ→「卵」に関係があるのでは、と探していって、「フライパンで焼いた、白の中に黄色い丸がある、あれ」と結びつくまでに、また数秒かかる。ここでうっかり間違って「だしが入って巻いてある、黄色いあれ」と結びついてしまうこともある。

 

こうして単語を一つずつ「ああ、あれのことか」と理解していくため、普通の人よりも「わかる」のが遅くなる。「目玉焼き」がようやく解決したところで「コーヒー」と言われると、処理が追いつかなくなって混乱するのだ。

 

同じような理由で、早口の人も苦手になった。まずスピードが速いと「め・だ・ま・や・き」の5音であることが聴きとりにくいし、一度に入ってくる言葉の量が多すぎて、やはり処理が追いつかない。

 

あ、この一連の流れは、このときから2年後、言語聴覚士になるための専門学校で学んだ知識です。失語症家族(初心者)だった当時は「苦手な外国語を聴くときみたいな感じかな」と、なんとなーく思ってました。

 

苦手な外国語、たとえば私だったら、英語の初心者クラスで“I ate a fried egg for breakfast”とゆっくり言ってもらえたら、なんとか理解できる(それでもfried eggって何だ? で時間がかかる)けど、ニューヨークの街角で“I ate a fried egg for breakfast,drank coffee and then brushed my teeth”なんて早口で言われたら、え? フライ? コーヒー? ブラシ? ティー? 珈琲なの、紅茶なのどっちなの? と大混乱するみたいな感じだ。

 

だから5ヵ月ぶりのオットとの二人暮らしは、できるだけ短い文でゆっくり話すことから始まった。

 

日本語が苦手な外国人に伝えるように。ちゃんと理解できたか、確認しながら。

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    こう見えて失語症です

    米谷 瑞恵

    主婦の友社

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