民間需要の呼び水の役割を果たすべき
矢野さんは同寄稿で、一般会計税収が増えないのに歳出が増え続けることを〈「ワニのくち」が開く〉と論じ、財政破綻危機を警告しています。少子高齢化の日本では税収を増やせるだけの経済成長は無理だ、増税や歳出削減で財政均衡を果たすのが先決だとの主張です。
しかし、そんな緊縮財政路線が国民経済を萎縮させ、デフレ病を慢性化させ、肝心の財政収支悪化を招いてきたのではないでしょうか? そして、勤勉な国民は生活を切り詰めて現預金など金融資産を貯め込んできたのです。細る内需に見切りをつけた企業に資金需要は乏しい。そうなるとお金は政府の財政赤字に充当されると同時に、海外の金融市場に回ってドル金利を押し下げます。これで喜ぶのは巨額のドル資金を調達したい中国です。
慢性デフレの始まった1997年度末と本年(2021年)度6月末の部門別純金融資産(マイナスは純負債)を確認すると、政府負債と海外の対日負債が家計の純資産によって支えられています。この間の増加額は家計純資産が758兆円で、一般政府純負債が567兆円、海外の対日負債が261兆円です。
ここまで述べてきたように、資本主義経済の原則は負債が増えないと資産が増えないということです。デフレ日本では政府が負債を増やすことで家計の資産を増やしています。家計の資産は大きく、政府の負債ばかりでなく海外の負債さえも支えています。そんな国が財政破綻寸前のタイタニック号であるはずはないのではないでしょうか。
大切なのは、膨大なお金余りの日本は、政府が国債を発行して将来に向けて先行投資して、民間需要の呼び水の役割を果たすことです。国債金利ゼロのいましか、そのチャンスはないはずです。
この私の論に矢野さんはどう応じてくれるのでしょうか、楽しみです。
田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員