(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

力強い文字で書かれた短い遺言書

ひと月ほど経って、亡くなったご主人の相続人である奥様と長男長女が家庭裁判所からの通知に従って、家庭裁判所に集まりました。呼び出しがあり、私を待合室に残して三人が検認の手続きに向かいます。

 

検認にかかる時間はほんの五分ほど。裁判官と裁判所書記官が立ち会って封を切り、相続人に遺言書のあった場所や筆跡、印影などの確認をするのです。

 

ほどなくして三人が戻ってきました。長男長女の後ろに隠れるようにして奥様がハンカチで目頭を押さえています。

 

「どうでしたか?」

 

私が尋ねると、長男が持っていた遺言書を手渡してくれました。

 

「ぜひ、読んでやってください」

 

ご家族と遺言書に頭を下げ、私は遺言書を封筒から出しました。整った力強い文字で書かれた短い遺言書でした。

 

そこには、「私の財産はすべて妻に相続させる」というしっかりとした意思が示されており、そのあとに、「世話になった」「ありがとう」という奥様への感謝の言葉が綴られていました。そして、子どもたちには「お母さんを支えてほしい」という希望も添えられていたのです。

 

「どうやら親父も私たちと同じ考え方だったようです」

 

長男はそう言って、改めて私に相続の手続きを進めるよう依頼しました。私は亡くなったご主人には会ったことがありません。それでも、その人柄を思い強い感動を覚えました。

 

相続の仕事をしていると、どうしてもぎすぎすした家族を目の当たりにすることが多くなります。そんな中で、亡くなった人の思いがこれほどしっかりと家族に受け継がれていることは本当に珍しいことでした。

 

亡くなったご主人は遺言だけでなく、「温かい家族」も残していたのです。相続の手続きをした私の心も温まる一件でした。

 

株式会社サステナブルスタイル

後藤 光

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

もしも明日、あなたの大切な人が死んでしまうとしたら──「父親が家族に秘密で残してくれた預金通帳」、「亡くなった義母と交流を図ろうとした全盲の未亡人」、「家族を失った花屋のご主人に寄り添う町の人々」等…感動したり…

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