株式:短期的には不安、物価連動国債ファンドの活用を
まず、資産に関するインフレ対策としては、株式、不動産、外貨資産の保有を勧める意見が多いようですが、金融資産も不動産も、長期的にはインフレには対応しますので問題はないのですが、短期的にはそうではなく、問題となります。
株式は一般的にインフレに強い金融商品とされますが、それは長期的にみてのことであり、短期的にはそうとは言えません。
名古屋市立大学の臼杵政治教授によると、年金運用ではインフレ・ヘッジ目的の資産としてしばしば株式があげられますが、年々の株式リターンと物価上昇率の間には大きな相関はみられず、株式がインフレ・ヘッジになるのはもっと長期でみた場合です※1。
※1 ニッセイ基礎研究所 臼杵政治「(年金運用):物価連動債発行と企業年金における活用」(2022年12月8日入手)
つまり、株式には短期的にインフレ対策にならないのです。そこでリターンは低いものの堅実なインフレ対応資産としては物価連動国債ファンドの活用が考えられます。
たとえば、年金の給付額がインフレに連動することが義務となっている英国の確定給付型企業年金は、英国の物価連動国債で多くの資産を運用しており、株式への投資割合は多くはありません。
この英国の例を参考にすれば、わが国の公的年金の資産配分と同じ内外の債券・株式の4資産に均等投資を行うバランスファンドと物価連動国債ファンドを1対1で保有し、株式:通常の債券:物価連動国債の比率が概ね1:1:1となるような運用が妥当と思います。この運用内容の標準偏差は6%程度ではないかと考えられ、平たく言えば、1年間に十中八九、6%を超える値下がりはないという程度のリスクとなると思われます。
不動産:「悪いインフレ時」にはヘッジが効かない
不動産については、実物の不動産は個別性が大きく、また、金額的にも大きいのでインフレ対策として購入するのは、多くの人にとって現実的ではないでしょう。
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部の大溝日出夫フェローによると、今後、日本経済が一定の経済成長を続けていけるとの前提では、その過程で発生するインフレ(良いインフレ)による貨幣価値の下落に対し、住宅などの不動産は長期的にはヘッジになると期待できます。
しかし、いま予想されるのは資源高などのコストプッシュ型のインフレが先に到来することであり、経済成長を伴わないインフレ(悪いインフレ)に対しては不動産のヘッジは効かないと考えるべきです※2。不動産投資信託(J-REIT)を活用すると個別性のリスクはほぼなくなりますが、経済成長に伴い、物件の賃貸料の上昇があることが前提になります。
※2 三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部「不動産マーケットリサーチレポート」大溝日出夫「不動産はインフレヘッジになるか」(2022年12月8日入手)
外貨資産:今後に備えた分散資産としてならお勧め
外貨資産については円安による輸入インフレには効果がありますので、一定の資産は保有すべきですが、輸入インフレの事後的な対策とはなりません。今後に備えて投資開始時期の分散を図りながら分散投資のひとつの資産として保有を徐々に行うことが堅実と思われます。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、インフレに強いとされる各種金融資産は、投資するにあたり現預金と異なり相応に価格変動などのリスクがあります。海外資産であれば為替のリスクもあります。これらのリスクと上手に付き合うためには、短期的な価格変動に一喜一憂せずにリスクを軽減しながらインフレをカバーするだけのリターンを目指していく、すなわち「中長期の国際分散投資」が有効であると考えます※3。
※3 東証マネ部! 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「目に見える形で表れてきた物価上昇 気にしておきたいインフレからの資産防衛」(2022年12月11日入手)
ただし、日本銀行調査統計局の八木智之企画役等によると、為替パススルー※4は、輸入ペネトレーション率※5が高まるなかで上昇傾向にあることが示唆されますが、原材料コストパススルー※6(為替変動の影響を除くベース)は、最終需要段階全体としてみれば大きな変化は窺われません※7。
※4 為替パススルーとは、為替変動の物価への転嫁のこと。
※5 輸入ペネトレーション率とは、わが国の国内で需要される財のうち輸入品が占める割合のこと。
※6 原料コストパススルーとは、原料の値上がりの物価への転嫁のこと。
※7 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ 八木智之他「コストプッシュ圧力の消費者物価へのパススルー」(2022年12月10日入手)
つまり、今回の資源価格の上昇による消費者物価の上昇は一部の品目を除いて起こっていないとされています(2022年9月時点)。そのため、今後、円安が解消される方向にむかうと、我が国のインフレは収束することが考えられます。
銀行預金:預金するより、物価連動国債ファンドが有効
なお、現在、目減りが起こっている銀行預金は、インフレと同時に金利が上昇すれば問題はありません。銀行預金のベースとなる短期金利の上昇が起これば問題はないのです。
しかし、様々な要因からわが国の短期金利が上昇せず、長期金利も10年までは低く抑え込まれています。そうした中、インフレ率だけが上昇する状況ではやはり物価連動国債ファンドがインフレ対策となります。しかし、物価連動国債は債券ですから金利上昇リスク(債券価格の下落リスク)に備えて個人向けの変動金利型国債との分散投資が適切でしょう。
実際、世界最大の債券専門運用会社のピムコは、債券投資家に将来の購買力を維持または向上させるためには投資資金がインフレ率に遅れを取らない方法を考える必要があるとして、変動利付債とインフレ連動債の保有が考えられるとしています※8。
※8 PIMCO「インフレが債券に与える影響」(2022年12月10日入手)
公的年金:2年の就労延長で、減額分をカバー
そして高齢者の公的年金についてですが、これにはインフレスライドの制度がありますが、マクロ経済スライドの制度により、原則、年平均0.9%だけインフレに追いつかない形で実質的に約2割削減されてゆきます。
しかし、2年程度働く期間を伸ばして公的年金の受け取りを約2年繰り下げれば、その分の増額効果(1カ月当たり0.7%の増額)により、マクロ経済スライドの減額分を概ねカバーできます。そのため、年間の生活費をカバーできる程度の賃金で2年程度長くことがインフレ対策となるのではないでしょうか。
※ 本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。
藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師