国有接近で企業の「自由度喪失」が懸念
懸念点も多い。国有資本との接近に伴い、イノベーションの担い手として活躍してきたテック系企業のあいだで、事業の自由度喪失、創造性の後退、人事権のはく奪などが問題視される可能性がある。
国家資本主義の強まりが意識されれば、海外投資家の印象が悪化する可能性すらある。
企業側もそれを意識しているフシがある。テンセントとチャイナ・ユニコムの合弁が話題になった際、後者の関係者は「親会社の株式(構成)は変更なし。(今回の合弁は)市場が理解しているような"混合所有制改革"ではない」とあえて強調した。
前述のように、混合所有制経済は一般的に国有企業と民間企業の相互出資と定義付けられ、メリットとしては国有企業の生産効率やサービス提供能力の向上、コスト削減、柔軟な経営戦略の構築などが挙げられる。
官民パートナーシップと言えば聞こえがよすぎるが、根底には民間の力を活用して国有企業改革を推し進めようという狙いがある。
それでも、国家統制が厳しくなる昨今、市場では「国有が民間を飲み込む」と判断されやすく、それがユニコム側の懸念払しょく発言につながったようだ。
テック業界の規制強化に打ち止め感も
テック業界は近年、さまざまな引き締めに遭ってきた。背景には、産業の急発展にルール作りが追い付かず、管理が行き届いていなかったことがある。
自由すぎるとグレーなビジネスや地下経済のようなものが出てくるリスクもあり、それを防ぐために一定の規制、ある程度は国の関与が必要というロジックだろう。
ただ、ここに来て管理や規制強化が一巡したとみられる。今回の国有大手との提携が多く浮上したことも、一種の「手打ち」と捉えることができるかもしれない。
もともと、テック系企業と通信キャリアはDX分野で事業の親和性が高く、協力を通じたシナジー効果も表れやすい。
12月の中央経済工作会議を通じてプラットフォーム経済の健全な発展後押しなどの方向性が改めて決まれば、テック系を中心にマーケットの雰囲気が変わってくる可能性もあるだろう。
奥山 要一郎
東洋証券株式会社
上海駐在員事務所 所長