生命保険はライフステージに合わせた保障
▼辛くないダウンサイジングを
髙橋:さて、定年後はお金が足りなくなるのでないかと漠然とした不安を抱く方も多いと思いますが、定年後は生活をダウンサイジングして、無駄をなくし、好きなことにお金を使えば、結構楽しく生活ができると思うのです。いかがでしょうか。
大江:それはそのとおりですね。ダウンサイジングというと皆さんすぐ節約ということを思いがちなんですけど、節約ってやりたいこと、欲しい物も我慢するというイメージが強いですね。でも定年退職者はやりたいことを我慢する必要はないんです。
ただ物事の優先順位を考えることが大切だと思います。例えば、付き合いとか義理とか見栄とかがあって、従来は仕方なく生じる支出が案外多いわけです。本当にやりたいことだったら、お金を惜しむ必要はない。だけど本当にこれが自分のやりたいこと、必要なことかっていうことを、定年を機に一度とことん考えてみるのが良いですね。
例えば、慣習的にだしている年賀状とか、民間の生命保険や医療保険もそうかもしれませんね。自分にとって優先順位の低いものはやめてしまって、その分を優先順位の高い方に回す。これが楽しくお金使うということです。
髙橋:お聞きしていると、お金の前に、自分が何を大切にしているか、何に価値を持っているかを考えるのが大切ということなのですね。
大江:そうです。義理とか見栄とか恥とかは全部捨てた方がいいんです。
▼リスクとクライシスの違い
髙橋:はい、よくわかりました。
次に保険についてお聞きしたいのですが、生命保険や医療保険は何となく不安だから入っているというケースは多いと思うのです。定年後については、どう考えればいいのでしょうか。
大江:社会保険の保険料をきちんと払っているのであれば、60歳以降、基本は生命保険や医療保険も一切不要というのが私の考えです。その理由はこうです。そもそも民間の保険って何のために入るのかと言うと、めったに起こらないけれど、もし起こった場合は大変なことになる事態に備えるものです。言い換えればリスクじゃなくて、クライシスに備えるためのものなんですよ。
髙橋:リスクとクライシスは違うんですね。
大江:そうです。リスクというのは、ある程度確率的に予測ができ、コントロールできるものなんです。例えば、年齢的にこんな病気にかかりやすいというのはある程度予想できます。でもクライシスっていうのは突然起こって、かつそれが破滅的な影響を及ぼすものなんですね。例えば、車の人身事故で死亡事故を起こしてしまう、これって車を運転している限り、起こりうることですよね。
だけどめったに起こるものじゃありませんよね。多分、ほとんどの人は一生の間に一度も起こらない。だけど、もし起こったら何億円っていう賠償金が発生します。だから、車を運転する人は絶対に対人賠償を無制限に入っていないと駄目でしょう。だけど、生命保険や医療保険はほとんど必要ありません。
もちろん生命保険も必要な時期はあります。例えば、若い夫婦で奥様が専業主婦、そして小さな子どもがいる場合は、生命保険に入った方が良いでしょう。その場合でも、もし旦那さんが亡くなった場合に遺族年金がどれぐらいあるかをきちんと把握した上で、それで足りない分だけ入ればいいのです。
アメリカでファイナンシャルプランナーが「保険に入る時にどうすればいいか」というアドバイスをする時には、それぞれのケースに合わせて必要な保障額を計算し、あなたはいくらの保険に入ったらいいって言うんですよ。その金額は決して過剰なものではありません。
髙橋:一人ひとりに合った提案をされるのですね。
大江:そうなんです。それから医療保険に関して言うと、私は医療保険も全く入ってないんです。なぜかと言うと、高額療養費制度があるので入院して100万ぐらい月にかかったとしても、申請すれば自分の負担って86,000円ぐらいで済むわけです。86,000円ぐらいなら自分でも出せます。
髙橋:そうですよね、そういうことがハッキリすれば安心ですよね。知っているのと知っていないとでは全然違いますね。
1952年、大阪府生まれ。野村證券を定年退職したのち、オフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用、企業年金、シニア向けライフプランなどをテーマとして、執筆やセミナーを行う。近著の『知らないと損する年金の真実』(ワニブックスPLUS新書)、『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)、『定年前』(朝日新書)ほか、著書多数。
髙橋 伸典
セカンドキャリアコンサルタント
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