銀行口座にはうなるほど貯金がありながら、アパートの一人きりの部屋で誰からも看取られることなく息を引き取る。「火垂るの墓」とは時代も環境もまったく異なりますが、清太と節子を殺した者と少子高齢化社会にわたしたちを殺しに来る者はほとんど同じではないかと思うのです。それは意固地さや自意識(プライド)によって、自ら社会資本との繫がり(しがらみ)を断ってしまったわたしたち自身です。
社会資本は個人の管理外にあるものですから自分のコントロール外にありますが、生きていくのに必要不可欠です。自分自身の選択によって社会との繫がりを断ってしまわないようにすることは言うまでもありません。そして、たとえ一つひとつは細くとも多くのラインで社会資本との繫がりを維持していくことが保険となるのです。なにも保険会社が販売する商品だけが保険ではないのです。
定年を前に個人資本と社会資本を見直す
人生100年時代において、50歳はちょうど折り返し地点にあたります。そしてあと10年ほどでやってくる定年退職が目視できてくる頃合いです。このタイミングで後半にやってくる少子高齢化社会を生きるための態勢ができているのか? 自らチェックすることをお勧めします。
言うまでもなく、人生後半の目的は幸福になることです。幸福になるための土台は「個人資本」と「社会資本」です。それぞれについて、チェックするポイントが違います。
個人資本は貸借対照表の「純資産」と「知的資産」から成ると言いました。純資産は金額的に定量的に把握することができますが、知的資産はそうはいきませんね。計算された純資産の金額を見て、それを使って今後の自分が幸福になるためのバリエーションがどれだけ豊富にあるか? という側面からチェックします。老後の住まいに関連付けながら、その具体的な方法を示します。
社会資本については、既にお話したように、金額で把握することはできませんし、そもそも自分でこれをコントロールすることはできません。自分から社会との繫がりを断ってしまわないようにすることが重要です。そのため、現時点で自分と社会との繫がりがどれだけあるのか? それを減らしてしまわないようにどうしていくべきか?という側面からチェックします。
老後のパートナーとのありかたや住まいの選択に関連付けながら、その具体的な方法を示していきます。そして、これらを踏まえた具体的なアラフィフからの住宅ローンの組み方と実例についてお話していきます。
千日 太郎
オフィス千日(同)代表社員
公認会計士