(※写真はイメージです/PIXTA)

「ある財の消費を増やしていくと、限界効用はしだいに小さくなっていく」。これを限界効用逓減の法則と言います。この法則は人間の心理についての普遍的な法則ですから、当然お金という財とその効用についても当てはまります。公認会計士の千日太郎氏が著書『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)で解説します。

2000万円あれば幸福な老後を過ごせるか?

しかしながら、お金による幸福を「生活のことを気にせず海外旅行やブランド品を買えること」と捉えることは、少子高齢化社会を控えたわたしたちにとっては成立しない前提なのです。年収1600万円は確かに富裕層と言えますが、こうした幸福を追求し続けると、老後にお金がほとんど貯まらない程度の年収なのです。

 

年収が高ければ年金も多く払っているので、老後は安心とは言えない状況になっていることは既に述べた通りです。リタイアすると収入が半減し、その状態で海外旅行やブランド品を買い続けると破綻することは目に見えています。賢明な読者はそれがわかっているので本書を手に取られているのだと思います。

 

2019年に金融庁の金融審議会が公表した報告書では、高齢無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の平均的な収支をモデルとすると、月平均で5.5万円の収支不足となるそうです。そしてこの不足額を累計していくと約2000万円になるというのが「老後2000万円不足説」の根拠です。

 

さらにこの収支モデルにおいて住居費は1.3万円となっていますので、住宅ローンはほぼ完済したということが前提となっています。

 

つまり、いかに年収1600万円の富裕層であろうと60代の時点でマイホームの評価額を超える住宅ローンが残っており、貸借対照表が債務超過(純資産がマイナス)の状態になっているということは、いわゆる老後破産の予備軍であることを意味するのですね。いかに現役時代の年収が高くても、定年時の貸借対照表の「純資産」をプラスに保つことに失敗すると、真っ逆さまに生活レベルを落とさなくてはならなくなるのです。

 

出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より
【図表】高齢無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の家計収支が5.5万円の赤字となる根拠 出所:千日太郎著『50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)より

 

問題はそれだけではありません。逆に2000万円あれば幸福な老後を過ごせると思いますか? 否です。このケースでは毎月5万5000円の収支赤字を垂れ流しながら生活することを前提にしています。仮に2000万円の虎の子があったとしても、それが毎月5万5000円ずつ溶けてなくなっていく恐怖に耐えられるでしょうか? そんな老後はご免です。

 

かといって現役時代は年に1回は海外旅行を楽しんだりブランド品を買ったりしていた人が、リタイアした瞬間からすんなりと消費スタイルを変えられるでしょうか? そしてそんなわたしたちにとって「お金がないから我慢する」ことが老後の幸福なのでしょうか? 否です。消費を伴わずに感じられるよう幸福をアップデート(選択肢を開発)するのです。これが広義の知的資産です。

 

千日 太郎

オフィス千日(同)代表社員

公認会計士

※本連載は千日太郎氏の著書『初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入』(同文舘出版)から一部を抜粋し、再編集したものです。

初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入

初めて買う人・住み替える人 独身からファミリーまで 50歳からの賢い住宅購入

千日 太郎

同文舘出版

まだまだ現役世代のアラフィフが、“今”と“将来”を見据えて選ぶマイホーム ・幸福の条件とその土台 ・貸借対照表で自己資産を見る ・40代後半から家を買ってはいけない人の特徴 ・地方移住を成功させるカギ ・定年延…

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